2022年04月30日

激辛料理と日本人

激辛料理と日本人

よく日本人は辛いものが苦手だと言われる。たしかに同じアジアでも周辺の国々と比べると、日本には伝統的に辛い料理が少ない気がする。すぐ隣の朝鮮半島には赤唐辛子タップリの料理が多いし、中国料理にも激辛ものがたくさんある。これが東南アジアやインドあたりに行けば、料理とは辛いのが当たり前とか言われそうだ。あっちの国の人々は、唐辛子をボリボリかじったりするからなあ。

考えてみれば日本を代表する料理って、すき焼きにしろ天ぷらにしろしゃぶしゃぶにしろ、辛さとはほとんど無縁なのだ。いやいや、寿司や刺身にはワサビが付きものという人もいるが、あれは辛いというより鼻にツンと来るタイプだから。唐辛子や胡椒などをふんだんに使った、口や食道や胃の中が火事になるような、近隣国の料理に比べれば、ワサビなどはひと時の清涼剤みたいなもの。本当の激辛料理はトイレにまで追いかけて来るから、胃腸の弱い日本人には厄介なのだ。

そういえば筆者が若いころ、仕事の打ち合わせに出かけた会社でのこと。打ち合わせが終わり昼になったので、先方の友人二人と食事に行くことになった。で、連れて行かれたのが一軒のカレー専門店。くだんの二人が頼んだのは、なんと辛さが最高ランクのカレーだった。負けるもんかと筆者も同じものを頼んだが、さすがにこれはキツかったね。だが、ニヤニヤしている二人に弱音を吐くのもシャクなので、ガマンして平気な顔で一皿食べ終えたのだった。ただし、しばらく経ってトイレに行きオシッコをしたとき、尿道にビリッと電流が走ったのには驚いた。いや~、あれは体が震えるようなショックだったなあ。

そうそう、筆者がかつて台湾に行ったときも、けっこう辛い料理を連日食べたっけ。そして、旅行の日程が終わり最後の日に案内されたのが、わりと庶民的な台北の台湾料理店。ジューシーな小籠包など、そこで食べたものはどれも美味かったが、調子に乗って激辛料理などもパクパクと食べてしまった。やがて台北から帰国の飛行機に乗った筆者の、腸の具合がおかしくなり始めたのは、羽田からのモノレールが浜松町に着いた頃だったかな。そこから、当時住んでた千葉県の柏市に電車で帰り着くまで、筆者がどれほどの艱難辛苦を耐え忍んだことか…。なにしろヤバかったのだ。そこから得た教訓は、激辛料理は食べるときは美味いが、後がちと怖いということ。

ちなみに、唐辛子の辛味成分として知られるのがカプサイシン。ある学者の研究によれば、人が唐辛子を食べて頭痛・腹痛・下痢などの症状を起こすのは、体がカプサイシンの刺激を火傷と間違えたことによる反応だとか。なるほどね、そうだったのか。まあたしかに唐辛子のピリッと来る感じは、火傷の瞬間のアチッという感覚と似ているものな。なので胃腸のことを考えるなら、カプサイシンの大量摂取は控えた方が良さそうだ。ただし少量のカプサイシンは適度に胃を刺激し、胃液や唾液の分泌を活性化させ、食欲を増進させてくれる。やはり筆者などは焼き鳥やうどんに、少しだけ一味唐辛子をかける程度にしておこう。

もっとも、日本人も慣れれば激辛料理に耐性が出来る。辛いカレーも毎日食べていれば、辛さを感じなくなるというわけだ。今では街に、激辛が売り物のラーメン屋やカレー屋は珍しくなく、またタイ料理店や韓国料理店、中国料理店などに入れば、激辛のうまい料理がいつでも食べられる。しかもそうした店はけっこう人気があるのだ。辛いものが苦手だった日本人も、すっかり味覚が変化し、胃腸が丈夫になったということだろうか。そういや東京には、ありとあらゆる外国料理の店がある。日本人の味覚への貪欲さは、底がないのかもしれないなあ。

こうした辛い料理が生まれる要因は、いくつかあるのだろう。一つはやっぱり暑い国々のように、肉や魚の腐敗防止や臭い消しのため、香辛料が必要だったことが考えられる。もう一方で寒い国では、血行を良くし体を中から温めるため、香辛料を活用した料理が生まれたのだろう。前者の代表がインドやタイのカレー料理なら、後者の代表は韓国のキムチチゲかな。なので、気候が温暖で新鮮な海の幸や山の幸が豊富に手に入る日本には、辛い料理が発達しなかったのかもしれないね。まあ、生魚料理に付き物のワサビや、九州から生まれた柚子胡椒、新潟県のかんずりなどもあることはあるが、これらは料理の薬味にすぎないものな。

ところで、唐辛子の入った辛い料理を食べると、つい水を飲みたくなるが、これはどうやら逆効果らしい。辛味成分のカプサイシンは水には溶けず、かえって口の中に広がってしまうのだとか。効果があるのは牛乳やヨーグルトなどの乳製品で、カプサイシンを溶かして口の中から流してくれるそうだ。他にも砂糖や油脂を使ったデザートは、辛さをマイルドにしてくれるのだという。そう言えば中国料理店の辛い麻婆豆腐を食べた後は、デザートの杏仁豆腐がバカ美味いし、タイ料理の最後にはタピオカの入った甘いココナツミルクが食べたくなる。なるほど、世の中はうまく出来ている。やっぱりデザートは、必要から生まれたものだったのだな。



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Posted by 桜乱坊  at 09:17 │Comments(2)食べ物など

この記事へのコメント
激辛と聞いて恥ずかしく思い出すのは、社会人として上京し大衆食堂に入った時です。学生時代、ご飯にケチャップやマヨネーズをかけて食べ食費代を節約していました。その時点で「タバスコ」は見たことがありません。住まいの近所の食堂で「ラーメン・ライス」をオーダーし、つい癖でライスにたっぷりとケチャップをかけたつもりが「タバスコ」でした。口の中が燃えるとはこのこと、恥ずかしいからガマンして完食し、そばの独身寮に帰って歯磨き粉で歯を磨いたところ、いよいよ大炎上し、とにかく冷水を口に含むことを1時間くらい繰り返していたら、やっと痛みが引いていきました。自分の田舎者を自覚しました。その後、辛いものに舌も慣れて、小笠原島では、ムロアジのタタキを醤油と赤トウガラシで食することに快感を覚えました。ハヒホヒハー、ヒーヒーと口を息で冷やして食べるのは最高でした。熱帯の気候のせいかもしれません。東京に戻ったらワサビ醤油で十分においしいです。
Posted by 桜田靖 at 2022年05月06日 10:54
続きを書きます。激辛料理は正直言って好みでないです。医師によると味覚が破壊されるとか、そういう見解もあります。海外旅行での感想は、タイ、マレーシア料理は辛いということです。かつて警視庁の警察学校には、タイ国の警察幹部候補生が留学していました。連中は大きな唐辛子の粉末の袋を本国から持ち込んでいて、食事の時にご飯やウドンの上が真っ赤になるほどかけて食べて平気でした。私は漢文で学んだ中国の史跡が見たくて五回くらい現地に行きました。そのうちの一回は個人旅行でした。漢時代の都だった長安の跡地、兵馬俑、楊貴妃の華清池、水の蘇州、絶景の桂林、美女の西施が沈められた西湖など枚挙にいとまないです。従ってゲップか出るほど中華料理を堪能しましたが、激辛を感じたことはありません。麻婆豆腐も口にしましたが普通に辛いという感覚でした。ヨーロッパ一帯では激辛料理を食べた記憶はないです。モンスーン気候の東南アジアで辛み料理が好まれるのでしょうか。
Posted by 桜田靖 at 2023年06月28日 10:42
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