2013年12月12日

W杯の対戦国が決まった!



12月7日の午前零時過ぎから始まった、ブラジルW杯の組合せ抽選会。もちろんテレビの前の筆者の心臓は高鳴ったが、オープニングセレモニーの冒頭に出て来た女性歌手を見て、テンションはますます上がってしまった。なんとステージで歌っているオバサンは、わお、あのアルシオーネじゃないか! そのむかし中野サンプラザのコンサートで見たときに比べたら、すっかり太って貫禄十分になってしまったが、太く低く艶のある声は若い頃のまま。ああ、いよいよブラジルでW杯が開かれるんだという実感を、筆者もあらためて噛み締めたというわけだ。

抽選会ではケンペスやマテウス、ジダンなど、往年の名選手が次々と登場。ポットの中の国名の入ったボールを手際よく選んで行き、意外な早さで出場32ヶ国を8グループに振り分ける作業は終った。で、日本の入ったグループはといえばC組。対戦する相手国がコロンビア、ギリシャ、コートジボアールの3ヶ国に決まったが、正直「死の組」だけは免れたという安堵感を、誰もが感じたのではなかろうか。ブラジルやドイツ、スペイン、アルゼンチンといった横綱クラスの国々と、同組にならなかったのは幸運と言っても良かった。

翌日からさっそく、日本のマスメディアは楽勝ムードだ。ふだんはあまりサッカーに関心がないくせに、W杯のときだけは盛り上がるワイドショーなども、解説者やコメンテーターの楽観的な言説をさかんに取り上げていた。予選グループ突破は確実だとか、ベスト8は行けるだとか、中には決勝までという超強気の予想まであり、筆者もつい苦笑いしてしまったよ。待て待て、安心するのはまだ早い。人間、調子に乗り過ぎると碌なことはないのだ。

まあ、別に筆者が悲観主義者だから言うのではないが、今回の予選グループの相手は、はたしてそんなに弱い国ばかりなのだろうか。孫子にも「彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず」の言葉がある。ここはまず冷静に対戦国を分析し、彼我の戦力をあれこれ比べてみるのも、サッカーの楽しみ方というものだろう。つまりW杯の観戦は、すでに始まっているということ。

そこで気になるのが、初戦で当たるコートジボアールだ。そしてコートジボアールといえば、まず名前の上がるのがFWのドログバ。日本にも鳥栖にトヨグバがいるが、この男はそれとは比べ物にならない身体能力を持つ、恐ろしいストライカーなのだ。おまけに2010年の南アフリカW杯前の親善試合では、日本の闘莉王と接触して右腕を骨折させられた因縁があり、今回は激しい闘志を燃やして来るだろう。闘莉王のお陰で、ドログバの顔がますます恐ろしく見えて来る。

さらにこのチームにはジェルヴィーニョ、カルーという強力FWの他、ヤヤ・トゥーレという点の獲れるMFもおり、その攻撃力は日本にとって脅威だ。コートジボアールは、身体能力の高いアフリカ諸国の中でも、最もバランスのとれたチームと言われており、決して日本が楽に勝てる相手ではない。そこをわが方の組織力で、どう突き崩して行くか。相手が前のめりに攻めて来れば、隙をついて日本のチャンスも広がりそうだが、やはりこんな連中と初戦を戦うのはとてもリスキーなのだな。

二戦目の相手はギリシャ。予想では最も勝ちを見込める相手とされているが、どっこいこの国はしたたかそうだ。確かに有名なスター選手はいないが、なにしろ筆者は2004年のヨーロッパ選手権の記憶が、いまだに頭から離れない。この大会を制したギリシャの戦法は、とにかく堅い守りからの一発カウンター狙い。レーハーゲル監督が磨き上げた、このカウンター戦法は実に効果的で、並み居る欧州の強豪国を次々となぎ倒して、“奇跡の優勝”と言われたものだ。とにかく、あのときはしぶとく強かったね。

列強ひしめくヨーロッパで小国が勝ち残るには、こうした“ヤマアラシ戦法”しかないのだろうが、現在もギリシャにはこの伝統が引き継がれているはずだ。実は日本はこの手の相手に弱い。ガッチリ引いて守られれば、得意のパスの出し所を失う上、前がかりのとき一発カウンターの速攻を食らうと、弱点であるCBの脚の遅さが露呈してしまう。ともかくやり難い。ギリシャは煮ても焼いても食えない相手なのだ。下手をするとズルズル相手の術中にハマってしまう危険性もあるので、日本としてはぜひ攻撃のバリエーションを増やしたい。

さあ、三戦目の相手がいよいよコロンビアだ。この国はときどき世界的なスーパースターを生むが、筆者が知っているコロンビア選手と言えば、まずバルデラマの名前が浮かんで来る。金髪の獅子頭風アフロヘアがトレードマークで、1990年のイタリア大会から98年のフランス大会まで、計3度のW杯で活躍した名チャンスメーカーだったなあ。また同時代には、アスプリージャという名うての点獲り屋もいたし、イギータという超攻撃的なGKもいたっけ。とにかく個性的で華麗で、何かスゴいことを仕出かしそうな選手を輩出するのが、コロンビアという国のイメージなのだ。

その意味で今回のブラジル大会で注目されているのが、ファルカオという選手。現在のコロンビアの絶対的エースFWで、左右の脚で良しヘディングで良しという、万能ストライカーなのだから手がつけられない。その得点力は、メッシやクリスティアーノ・ロナウドとも並び称されており、この男を止めるのは容易ではなさそうだ。これで本当に、守りに不安のある日本のDF陣は大丈夫かいな?

おまけにもう一つの難敵が、監督のホセ・ペケルマン。一時期、日本代表の監督候補にも上がっていた人物だが、低迷が長く続いたコロンビアを立て直し、南米有数の強豪に仕上げた手腕は高く評価されている。今では“名将”の呼び声も高い。日本の戦力などもズタズタ丸裸にされそうで、ある意味ではこの人、最も恐ろしい敵かも知れないのだ。強敵揃いのW杯南米予選も、コロンビアはアルゼンチンに次ぐ2位で通過しているし、南米のチームに相性の悪い日本にとり、ここはとてつもなく高いハードルになりそうだ。

しかしこうして見ると、マスメディアの楽勝ムードがいかに根拠のないものかが良く分かる。C組は油断のならない相手ばかりなのだ。まあ、今や日本にも本田や香川、長友といった外人を恐れさせるサムライが出て来たが、敵も必死で日本のウィークポイントを探して来るはず。孫子も「兵は詭道なり」と教えている。ザッケローニ監督にはぜひ徹底的に相手を分析し、彼らの長所を消し急所を突く戦術を選手に授けて欲しいね。戦いはもう始まっている。  


Posted by 桜乱坊  at 12:00Comments(0)スポーツ