2013年10月31日

銀杏の実は「秋の宝石」



銀杏の実のなる季節だ。葉っぱが黄色く染まったイチョウの木の下には、たいてい柔らかく熟れて落ちた実が無数に散らばっている。だがこのブヨブヨの果肉がクセもので、知らずに踏んづけると靴の裏がベトベトになる上、まるでウ◯コのような異臭を放つのだから始末が悪い。この季節、イチョウの木の下を通るときは、よほど足元に気をつけるか避けて行くのが賢明だろう。

実はこのイチョウには雄木と雌木があり、実のなるのは雌木の方だ。つまり、樹木なのに動物と同じく個体がオスとメスに分かれ、メスの方だけが鈴なりの実をつけるというわけ。そんな変わり者なので、雄木の下で銀杏の実を探してもそれは無理というもの。所詮、オスなどは役立たずなのだ。佐賀市街のイチョウ並木もよく見ると、びっしり実をつけた木とまるでそうではない木があるので、この話が信じられんという人は観察してみると良いかもね。

もっとも、そんな悪臭を放つ嫌われ者のイチョウの実も、果肉をよく洗い落とすと中から堅い殻の種が現れる。これを干したものが普通にいう「銀杏の実」という奴で、殻の中には極上に美味い“秋の宝石”が入っているから嬉しい。そう、茶碗蒸しなどによく入っているアレだが、筆者はこれが大好物なのだ。よく炒った白い殻を割り、中から取り出したエメラルドのような熱い実を塩で食べるとき、筆者はこの世に秋の訪れを感じるというわけ。ビールのつまみには、もう最高なのだな。

問題はこの殻を炒るときで、そのまんまフライパンや電子レンジで加熱すると、パパーンと破裂してキッチンが市街戦状態になるので要注意。大事なのはハンマーやペンチなどで、予め殻に割れ目を入れておくこと。こうすれば加熱しても破裂することはないし、食べるときも指で開けやすい。電子レンジで加熱する場合は、封筒などの袋に入れておけばなお安心というものだ。しかし美味いものを食べるときは、それ相応の注意や工夫が必要という戒めが、銀杏の実には詰まっているんだなあ。

そんな銀杏の実は美味いだけでなく、さまざまな栄養や薬効があることでも知られている。澱粉やタンパク質にビタミンなどを多く含み、ミネラル類も豊富な銀杏は、古くから咳や痰、夜尿症などの薬としても用いられて来たようだ。さらには強精効果もあるというから、これはなかなかのスグレモノらしい。言われてみれば、あのツヤツヤと美しい緑色の実は確かに神秘的ではある。

そういえば筆者が東京に住んでいた頃、正月の初詣でに浅草の鳥越神社に行ったとき、同社から「不老長寿の薬」と書かれた小さな紙袋を頂いたことがあった。帰りにその袋を開けてみると、中には数粒の銀杏の実が入っていたっけ。どうやら境内にあるイチョウの古木から落ちた実らしかったが、勿体ない気がしたのでそのまま手をつけず、帰省したおり両親に土産として渡したのを覚えている。何といっても神社の銀杏は、ことのほか効能がありそうだものな。

ただし、栄養価の高い銀杏も無闇な食べ過ぎは禁物だ。含まれる〈4-O-メチルピリドキシン〉という有毒成分により、まれに中毒症状を起こすこともあるらしい。なので美味いからといって調子に乗り、100粒も200粒も食べるのは止めといた方が良いだろう。もっとも、相撲取りでも銀杏をどんぶりで食べる人間は、さすがにいないはずだけど…。

ちなみに、イチョウのことを「公孫樹」とも書くので不思議な気がするが、これは木を植えてから実がなるのは孫の代までかかるという意味の漢名。つまり元々この木は現在の中国が原産地で、かの地から日本に渡来したのは、どうやら鎌倉時代か室町時代の中世になってかららしい。日本の秋を彩るイチョウも、もとを糾せば渡来植物だったというわけだ。

佐賀県にある巨木で有名なのは、天然記念物で樹齢千年とも言われる、有田の泉山にある「弁財天の大公孫樹」。ただし、今から千年前の日本といえば平安時代にあたり、時代的に辻褄が合わなくなってしまうが、まあこの際なので固いことは言わないことにしよう。残念ながらこれ、雄木なので銀杏の実はならないようだ。もっとも実がなったらなったで、辺り一面スゴいことになりそうだが…。  


Posted by 桜乱坊  at 12:02Comments(0)食べ物など