2021年05月31日

4K画像で蘇る名作映画



このところのコロナ禍のせいで映画業界は大変だ。予定していた新作映画は公開延期になるし、公開したらしたで客席は〝密〟を避けなきゃならないし。思えば気の毒な話で、まさにこれ踏んだり蹴ったりの状態なのだ。おかげで筆者も近頃は、ずいぶん映画館から足が遠のいてしまった。何とかしてあげたいのは山々だが、こればかりはどうもなあ…。

そんなとき、筆者の耳にビッグニュースが伝わって来た。なんと、大島渚監督のあの名作『戦場のメリークリスマス』が、4K画像に修復されて全国の映画館でリバイバル上映されるのだと言う。『戦メリ』といえば1983年に日本で公開され、大ヒットとなった大島監督の代表作だ。いや日本だけじゃなく、アメリカや欧州各国でも公開された、世界的な名画と言ってもいいだろう。日本でも公開前から大きな話題になり、筆者も当時、さっそく新宿の映画館に駆け付けたことを思い出す。

この映画、なんと言っても出演者の顔ぶれが際立っていた。主演の4人は、筆頭にグラムロックの旗手で世界的ミュージシャンのデビッド・ボウイ、次いでYMOで一世を風靡したテクノポップの坂本龍一、その次は天才お笑い芸人のビートたけし、そして英国の実力派俳優のトム・コンティとまさに多士済々。よくもこんなキャスティングを考えたものと、当時は誰もが思ったはずだが、大島監督の狙いはみごとに当たったね。映画では、4人の個性が火花を散らし化学反応を起こし、これまでにない名作が生まれたのだ。

デビッド・ボウイは2016年に惜しくも亡くなったが、彼なしでこの映画の成功はなかっただろう。それほどの存在感であり名演技だった。また、坂本龍一は(演技はともかく)映画の音楽も担当して大成功。一躍、映画音楽の作曲家としてブレイクすることになった。一方、ビートたけしはこの出演で演技や映画作りに目覚め、いまでは世界的な映画監督へとステップアップだ。そういう意味では出演者それぞれにとり、この映画は記念碑的作品だったのではなかろうか。

そんなわけでこの映画を気に入った筆者は後日、レーザーディスク版が発売されると早速購入。折々に再生しては感動を新たにしていたのだが、やがてマランツ製のプレーヤーがあえなく故障し、そのうちレーザーディスク自体が、あっけなく世の中から姿を消してしまった。こら、いったいどうしてくれるんだよ! そこで次に買ったのが、ポニーキャニオンから出たDVD版。ところが今度は大丈夫と期待していたこのDVD、画質と色が最悪でせっかくの名画が台無しじゃないか。以来、筆者はいつかは高画質の修復版が出るのではと、ひたすら待ち続けていたのだった。

それがいよいよ4Kで、しかも映画館の大スクリーンで見られるとなれば、筆者だって天保水滸伝の平手造酒じゃないが(古っ!)、止めて下さるな行かねばならぬ。で、さっそく調べてみると、嬉しいことに佐賀では市内松原の「シアター・シエマ」で、6月4日から上映されると言う。こうなれば場所はどこでも良い。いやむしろこの映画、ガランとした大型シネコンよりも、マニア向きの小ぢんまりした「シエマ」の方が、相応しいような気もするな。いずれにせよ、カレンダーに赤い印を付けとこう。

しかし考えてみれば、最近は映画の修復技術もずいぶん進化している。かつてはボロボロだった名作映画が、見違えるほどクリーンな画像や音声になって復活する例が、ずいぶんと多くなった。ありがたい話だ。なにしろ、デジタル化以前の映画というものは、基本的にフィルムで撮られていた。映画会社はこれを多数複写して、全国の映画館に配給していたわけだが、問題はこのフィルムが傷付きやすく劣化しやすいってこと。おまけに素材自体が可燃性で、上映中に映写機の熱で燃え出すことも、むかしは度々あった。ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』の中でも、そんな場面が出て来たっけ。

なので、何度も映写機にかけられたフィルムは、傷だらけとなりホコリだらけとなった。と言って缶に入れて仕舞い込んでいても、長い間にカビが生えたり変色したりと、結局は劣化を免れないのがアナログの宿命なのだ。おまけに古いフィルムの中には、自然発火するものもあるから始末が悪い。こうして、フィルムで撮られた多くの古典映画が、傷付き劣化し失われて行ったというわけ。つまり、残されたフィルムの名画をデジタル化し、安全に保存することは映画界の急務なのだ。それにもともと映画は虚像の芸術だし、クリーンに再生出来さえすれば、メディアに拘る必要もないはず。

高画質への修復はそんなデジタル化の過程で、必然的に生まれて来た特殊技術なのだろう。美術館の油絵だって、汚れや傷を治す修復師がいるもんな。ましてデジタルの映像なら、コンピューターによる複雑な作業が可能だ。近年は専用ソフトも進化しているだろうし。もっとも、フィルムをスキャンしてデジタル化した画像を、一コマずつチェックして修復するのは、やはり人間の目視と手先による仕事らしい。結局は職人芸の手作業なんだな。長編映画ともなれば気の遠くなるような話だが、まずは千里の道も一歩から。頑張ってこれからもコツコツと、名作のデジタル化と修復を進めてほしいね。筆者も、そんなスタッフの努力に思いを馳せながら、今度の『戦メリ』を観たいと思う。  


Posted by 桜乱坊  at 11:59Comments(0)本・映画・音楽など