2025年04月30日
紫色のディープな謎

この季節、野原の散策には絶好のときで、ブラブラ歩いているといろんな雑草に出くわす。佐賀平野など野原だらけなので、筆者のような散策好きにはパラダイスなのだ。とくに目につくのが、野原一面を染めたように小さな花をつけた、名も知れぬ雑草の群れ。スミレとかキンセンカのような園芸種と違って、雑草の花はどれも小さく慎ましいが、これが群生するとなかなか美しい。しかもよく見れば、一つひとつは案外と綺麗な色をしている。そこがまた奥ゆかしくて可愛いところだ。
そんな目で雑草の花々を見つめると、意外な共通点に気がつく。それは、紫色をした花が多いという点だ。紫といえば高貴な色というイメージだが、野原に自生する雑草にこの色の花が多いのは、意外な気もするなあ。筆者がたまに散歩する嘉瀬川の土手にも、やはり濃い紫色の小さな花をつけた雑草(写真)が群生している。葉っぱの感じからしてどうもマメ科の植物らしいのだが、素人には名前が分からない。そこでネットで色々検索して調べた結果、ついにそいつの正体を突き止めたのだ(と、偉そうに言うほどでもないが…)。
それは「ナヨクサフジ」という名の草で、ヨーロッパ原産のマメ科ソラマメ属の植物だという。なるほど、こいつらは外来種だったというわけか。では、なぜ嘉瀬川の土手に群生しているかというと、初めは飼料や緑肥作物(田畑の肥料)として利用するため、各地で人為的に導入されたものらしい。それがいつの間にか野生化して、河川敷などに広がったというのだから、早い話が繁殖力の強い新参者。動物でいえば、アライグマみたいなものだろうか。まあ、花の色は美しいのだが、在来種の植物との関係がちと気になるなあ。
それにしても、春のこの時期に咲く雑草の花は、どうして紫色が多いのだろうか? 目につくところでも「レンゲ」や「ホトケノザ」「アザミ」、「ムスカリ」に「カラスノエンドウ」、藪の中によく見かける「ムラサキケマン」など、筆者だっていくらでも思いつくのだ。他にも名前を知らない花がいっぱいある。むろん、白や黄色や赤などの花もあるのだが、鮮やかな新緑の中に咲く紫色の花は、ハッとするほど艶やかで美しい。他の色と違って、絵画を見るようなゴージャス感がある。だからこそ余計に目につくのだろうか?
聞くところによれば、昆虫界で紫色を好むのはミツバチなどのハナバチの仲間だという。紫色の花は複雑な構造をしており、蜜を吸うためには奥深い位置までもぐり込む必要がある。社会性昆虫といわれ家族を構成するハナバチは、家族を養うためたとえ遠くてもちょっと危険でも、せっせと蜜を吸いにやって来る働き者だ。してみると、紫色の花をつける植物は、このハナバチの仲間をターゲットにして花粉を運ばせ、子孫を増やしてきたのかもしれないな。つまり両者は、紫という色で結ばれた共存共栄の関係。そう考えれば、この時期に紫色の花が多い理由も少しは分かる気がするのだが…。
そういえば高山植物にも、紫色や青色系統の花が多いという話を聞く。調べてみると、どうやらこれにはちゃんとした訳があるらしい。つまり、高山帯は平地にくらべ紫外線が強く、ゆえに植物の細胞内には活性酸素が発生する。この活性酸素は体内に増えると、人間だって老化や癌の原因になるという、とんだ悪玉なのだ。なので植物だって当然、わが身を守らにゃならんと考える。そこで青紫色の天然色素であるアントシアニンなどのポリフェノールを合成し、その抗酸化作用で活性酸素の働きを抑えるのだという。結果として高山植物には、紫や青色系統の花が多くなるということらしい。
なるほど紫色系統の花には、アントシアニンなる色素が関係しているのだな。まあ、筆者は素人なので詳しいことは分からないが、ということは紫色の花をつける植物は紫外線に強く、またミツバチなどのハナバチと相性が良いということになる。これも彼らが進化の過程で身につけた、サバイバル戦略なのだろうか。ふむふむ、かの美輪明宏氏ではないが、『紫の履歴書』というわけだな。自然界の花にも様々な色があり、それぞれに生き残るための戦略があるのだろう。だとするとゴージャスな紫色の花は、けっこうタフな生命力を表しているのかもしれないな…。