2022年02月28日

ワクワクさせる鎌倉殿



今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が面白い。小栗旬演じる北条義時を主人公にした、鎌倉幕府草創期の人間模様を描いたドラマで、筆者は毎回楽しみに観ている。脚本は『新選組!』『真田丸』につぐ3作目の三谷幸喜。筆者はこの三谷氏のひねりの利いたストーリー作りと、ユーモアのセンスが大好きなのだ。いつの回だったか、蹴鞠が得意だという源頼朝が妻となる政子の前で、プロサッカー選手並みのリフティングを見せたときは、思わず爆笑してしまったね。いや~、驚いた。

キャスティングも超豪華版だ。主演の小栗旬をはじめ、源頼朝に大泉洋、その最初の妻に新垣結衣、源義経に菅田将暉、後白河法皇に西田敏行、平清盛に松平健など人気俳優が目白押し。また、義時の兄・北条宗時に片岡愛之助、父・時政に坂東彌十郎、僧・文覚には市川猿之助と、歌舞伎界の名優たちも顔を揃えている。やはりテレビ時代劇に歌舞伎役者が登場すると、画面がビシッと締まるような気がするな。他にも今後、大物俳優が続々出演する予定のようで、これでもかと言うほど贅沢なドラマになりそうだ。

問題は、これほど豪華で多彩な出演者が織りなすドラマに、視聴者がついて行けるかどうかだろう。なにしろ『鎌倉殿の13人』なのだ。つまり主要な登場人物がかなり多い。源平合戦の大まかな経緯や、その後の平家の滅亡までなら、普通の日本人はそれなりの知識を持っている。なにしろ日本史上の有名な話だから。だが、それから後の鎌倉幕府の権力争いが、今後のこのドラマの本筋になって行くはずだ。つまり『鎌倉殿の13人』とは、源頼朝亡き後に設けられた、13人の有力御家人による合議制を指している。たぶん、ここから陰謀渦巻くドロドロした話になるのだろうが、そもそも合議制はモメる元だもんな。

実はだいぶ前、たまたま読んだのが永井路子著『炎環』という小説。本当にたまたまだったのだが、この小説を読んだことが筆者にとって、『鎌倉殿の13人』の良い予習になっている。というのも、この4部作の小説のそれぞれの主人公が、頼朝の弟・阿野全成、有力御家人・梶原景時、政子の妹・保子、そして北条義時の4人なのだ。まさに、このテレビドラマとぴったり重なるわけ。4つの作品はそれぞれ関連しあいながら、全体として幕府の人間くさい内幕を描いた、一つの作品になっている。しかし、永井先生の女性らしい細かな表現力は、ぞっとするほどだ。

阿野全成は幼名を今若といい、あの牛若の源義経の同母兄なのだが、頼朝の下でうまく世渡りし幕府の要人になる人物。梶原景時は義経ファンにとっては悪役で知られる、鎌倉幕府の有力御家人の一人だ。むろん13人のメンバーに入っているが、小説では悲劇の武将として描かれている。政子の妹・保子は全成の妻となる女性で、姉の子(後の将軍・実朝)の乳母となり、したたかに生きる影の女だ。そして北条義時は、頼りになる兄・宗時を失った後、北条家の惣領として徐々に成長し、ついには日本全土を治める武家政権のトップに立つ男…。こんなワクワクする展開が、これからドラマの方で見られると思うと、筆者はいまから楽しみなのだ。

それにしてもこれほど登場人物が多彩だと、ドラマの脚本家も、それぞれの人物造形に頭を悩ますはず。三谷氏は多少デフォルメしながら、そこをうまく描き分けている。たとえばおっとりした源頼朝は、ときにハッタリをかます肚のすわった人物で、生真面目で野心のない義時は、今後の伸びしろの大きさを感じさせる。また時政はコテコテの田舎武士でとぼけた味が魅力だし、大柄で目ヂカラの強い政子は将来の尼将軍の素質十分だ。なにより、西田敏行演じる後白河法皇の、妖しげで人が好さそうでワルそうな雰囲気が、視聴者の興味を否応なくかきたてる。こんな法皇様はこれまで無かったよなあ。

今年の大河ドラマがワクワクさせるのは、やはり昨年の『青天を衝け』が近現代もので、シリアスドラマだったせいもあるのだろう。話はなにしろ、幕臣から実業家になった渋沢栄一の一代記。そもそも地味な人物だし、時代が現代に近いぶん残された資料なども豊富だ。そこに話を膨らませる大胆な虚構や、脚本家の想像力を差し込むスキマなどは、ほとんどなかったに違いない。そんな真面目でやや堅苦しいドラマに、一年間付き合った視聴者は、やはり次は戦いと陰謀うごめく歴史モノを、と願っていたことだろう。

鎌倉時代はそのリクエストに応えるには、最適の舞台と言えそうだ。『吾妻鏡』や公家の日記など歴史資料はあるにせよ、そこにはない隠された部分も多いはず。つまり脚本家が想像力を駆使し、存分に腕を振るえる余地がいくらでもあるということだ。物語の作り手としては、魅力に満ちた時代じゃないのかな。前作が近代資本主義のお勉強の時間だったのに比べ、この『鎌倉殿の13人』は視聴者が肩の力を抜いて楽しめる、歴史エンタテインメントとして期待できる。筆者も御家人たちの陰惨な潰しあいを、三谷氏がどう明るく料理してくれるか楽しみにしたい。  


Posted by 桜乱坊  at 12:06Comments(1)本・映画・音楽など