2013年11月15日
劣化した『探偵!ナイトスクープ』

近ごろテレビをあまり観なくなったとはいえ、筆者にもお気に入りの番組はいくつかある。テレビ東京系の『ローカル路線バスの旅』や『開運!なんでも鑑定団』『FOOT×BRAIN』、読売テレビ系の『たかじんのそこまで言って委員会』などは見逃せないし、テレ朝系の長寿番組『タモリ倶楽部』もむかしから観ている。タモさんはNHKの『ブラタモリ』も面白かったなあ。おっと、BS-TBS『吉田類の酒場放浪記』を忘れちゃいけない…。
何だかんだで筆者もまだまだテレビには未練があるが、中でも思い入れのある番組といえば、やはり大阪の朝日放送が制作している『探偵!ナイトスクープ』だろう。なにしろ、大阪出張で泊まったホテルのテレビで観たのが最初で、それ以来すっかりハマってしまい、もう20年以上も毎週視聴しているのだからわれながらエラい。東京に住んでた頃はテレ朝で深夜に放送されていたため、いつもビデオで予約録画して観ていたものだ。佐賀に戻ったいまは、九州朝日放送での土曜夜の放送を楽しみに観ている。
ただし最近ちょっと感じるのは、この番組が以前ほどワクワクしなくなったこと、笑えなくなったことだ。何というか、かつての毒気やどぎついまでの探究心がなくなり、いまは子供相手の甘ったるい“探偵ごっこ”で、お茶を濁している感じがしてならない。つまり、大人向けの「悪乗り知的エンタテインメント」から、子供向けの「お遊び探偵バラエティ」へと、“変貌”してしまったように見える。いや“変貌”というより、これは“劣化”と言った方が正しいのだろうか。
たとえば最近放送されたのが、『新発見!?謎の球体生物』というタイトルの依頼。田村裕探偵が山に生えたドッジボール状の生物の正体を探るというものだったが、これはもう最初から何となく視聴者にも結論が見えていた。見た目が不気味な茶色の球体は、ホコリタケの仲間でオニフスベというキノコだったのだ。押すとホコリを吹出すが毒性はないというキノコで、それを専門家に電話で確認して、ホコリを吸い込んだ出演者一同ひと安心というところでエンド。なあんだともの足りなさを感じたのは、筆者だけではなかっただろう。
以前の同番組だったらたぶんこのキノコを材料に、お馴染みの林シェフに無理矢理頼み込んで、豪華なフランス料理かなにかに仕立て上げたはず。そして依頼者と探偵がそれを試食し、「いけるやん!」と手を叩いたところでエンドだったはずだ。そう、そこまでやるのが『探偵!ナイトスクープ』であり、こうした悪乗りの探究心こそが番組の魅力ではなかったか。その精神を失っては、“劣化”と言われても仕方がないと思うんだけどね。
他にも気になるのが、最近やたらと子供の依頼が多いこと。やれ、いたずらされた同級生に仕返しをしたいだの、デートの仲立ちをしてして欲しいだの、中にはただ一緒に遊んで欲しいというだけの依頼もあり、番組の幼稚化をハッキリと物語っている。また、妙にチマチマした内容の依頼が増えたのも事実で、室内での無くし物を探したり、ネコの爪を切ったり、家族の仲違いの調停をしたりと、これではまるで「探偵」というより「よろず相談員」ではないか。さっぱり面白くない。なので筆者はこんな依頼のとき、さっさと他チャンネルに退避することにしている。
そもそもこの番組の冒頭で、探偵局長はこう宣言している。「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、様々な謎や疑問を徹底的に究明する『探偵!ナイトスクープ』」。まあ「現代社会に鋭いメスを入れ」は半分冗談だとしても、ふつうの庶民の抱く素朴な疑問やアホらしい相談に真正面から取り組み、とことんまで追求してみせるのがこの番組の面白さだったはず。そこで奮闘する探偵たちの姿や結末の行方にこそ、われわれ視聴者は惹き付けられ感動したわけだ。いまの番組に欠けているのはおそらく、冒頭でいうこの「謎や疑問を徹底的に究明する」姿勢なのだろう。
思えば番組初期にはケッタイな依頼が多かった。中でも記憶に残るのが、全国の「アホ」と「バカ」の分布の境界を知りたいというもので、それを受けて視聴者から情報を募集するというテレビならではの大調査には、心底ドキドキさせられたのを覚えている。これはフツーの学者だったら、まずやらないテーマ。番組はその後意外な進展をみせ、勢い余って『全国アホ・バカ分布孝』なる名著まで生み出したが、この知的な悪乗りこそが『探偵!ナイトスクープ』の真骨頂だったはずだ。番組制作者にはぜひ、この頃のチャレンジ精神を思い出して貰いたい。
しかしこうしてみると、初代局長の上岡龍太郎の存在はつくづく大きかった。この番組の基本カラーは、間違いなく彼の才能が生み出したもの。喋りの上手さや頭の回転の速さはむろんだが、クールな分析力やシニカルなユーモアセンス、そして驚くべき見識の広さなど、どれをとっても一流で、彼の個性がそのまま番組の個性を創り上げたと言ってもよかっただろう。なにより、ドジを踏んだ探偵には遠慮なくダメを出す、その厳しさこそが番組のクオリティを高めていたのだと思う。ホント、早過ぎた引退が惜しまれるよ。
それに比べると今の局長の西田敏行、優しくて好人物なのは分かるが、その人の好さが番組の“甘さ”に繋がっている。たとえ問題の解決がイマイチだろうが、さっぱり笑いを取れなかろうが、まるでお構いなし。で、子供の依頼者などが出て来ると、探偵の出来不出来にかかわらず、もうそれだけでハンカチを取り出して涙ぐむのだから、どうしようもない。これでは視聴者は置いてきぼりだ。本来ならご意見番役のキダ・タロー顧問さえ、西田に遠慮してか近頃は何も言わないので、番組はいつもヌルい空気のまま終っている。ピリッとしない。これを末期症状と言うんじゃないのかな。
まあ探偵メンバーの数人が最近、いかにもギャラの安そうな若手芸人に入れ替わったのを見ても、番組の制作費が厳しくなったのは何となく分かる。金のかかるロケや大掛かりな調査は実際、もう難しくなっているのだろう。制作者も大変だ。しかし筆者は、この番組にまだまだ頑張って欲しい。なぜなら、こんなユニークな番組は大阪でしか作れないし、ここには大阪の良さがギュッと凝縮されていると思うから。
なので、もうそろそろ西田局長には顧問の席に勇退して貰い、新局長を大阪の芸人から迎えてみては、というのが一ファンである筆者の勝手な提案だ。つまり原点回帰。毒気を含んだ大阪風のシニカルさこそが、この番組の本来の持ち味だったはず。お子様向けの甘ったるいミルク味はもう十分だ。筆者のオススメは、生え抜き探偵で調査とプレゼン能力に最も長けていた北野誠か、喋らせたら右に出る者はいない上沼恵美子なんか、面白いと思うんだけどなあ。