2024年03月30日

春の野は食の宝庫?

春の野は食の宝庫?

世の中いよいよ春めいて来て、眠っていた生物が目を覚ます季節だ。寒さに縮こまっていた筆者も、なんだか心ズキズキワクワク、つい外に飛び出したくなるから不思議なのだ。やっぱり、日差しが伸び気温が暖かくなる春は、光り輝く〝生命の季節〟なのだろう。この変化にまず敏感に反応するのが草や木などの植物で、若芽・新芽がすでに至る所に顔を出している。これらは、見た目も美しいうえに食べても美味いので、むかしから人間たちの食用に供されて来た。

有名なのが百人一首にある光孝天皇の、「君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ」という和歌。古代の貴人たちも春先の寒い中、野っ原に出て若菜なんか摘んでいたのかな。まあ、むかしは今みたいに野菜の種類も豊富ではなかったはず。野草や山菜の若い芽を摘んでは、せっせと食用にしていたのだろう。ただし、当時の料理法には天ぷらも炒め物もなかったから、汁に入れたりおひたしにしたりが主流だったのかも。と言っても、醤油も味の素もドレッシングもない時代、筆者にはあまり美味そうにも思えないのだが…。

そういえば筆者がこの春先、何度かおひたしにして食べたのが、川の土手に咲いたハマダイコンの花。こいつの蕾のままの茎を、散歩ついでにゴッソリ摘んでは持ち帰り、たっぷり出汁をかけて、ありがたく頂いたというわけだ。なんといってもこれ、土手一面が真っ白になるほど群生しており、そのままにしておくのは勿体ないのでね。ハマダイコンはダイコンが野生化したものと言われ、見た目は白いナノハナといった感じだろうか。なので、毒などの心配はない。味の方だが、ちょっぴり苦味があるものの非常に美味で、まさに春の味。おかげで筆者もしばし、古代の貴人の気分に浸ったというわけだ。

草の芽といえば、フキノトウも顔を出す頃だろうか。フキといえばあの長い茎を連想するが、茎と呼ばれる部分は実は「葉柄(ようへい)」といい、葉っぱと地下にある茎をつなぐものらしい。これは知らなかったね。この地下茎から、春になってニョキッと顔を出すのがフキの花の芽、つまりフキノトウなのだ。筆者は新鮮なフキの煮物や、キャラブキなどは好物なのだが、実をいうとフキノトウはまだ食したことがない。なぜなら、ちょっと苦味の強いイメージがあって、あまり食指が動かないのでね。しかも、買うとけっこう高いし…。むろん、誰かタダでくれる人がいれば、喜んで挑戦するつもりだが。

それより、驚くべきなのはフキノトウが近年、ガン治療の分野から注目されていることだ。斯界の研究グループの発表によれば、フキノトウに多く含まれるペタシンが、ガンの増殖と転移を強く抑制することを発見したという。しかもペタシンは、抗ガン効果が顕著なのにもかかわらず、副作用がないという超優等生。おまけにこのペタシン、人工的に大量合成できるため、新しい抗ガン・転移阻害薬の開発も期待されるのだという。まさに夢のような話じゃないか。フキノトウにそんな秘めた力があったとは、お釈迦さまでも知らなかったはず。人は見かけによらぬものだが、春の新芽の中には、他にもスーパーパワーを持ったものがあるのかもしれない。

しかしこうなると筆者は、やっぱりタラの芽の話をしたくなる。あれはだいぶ前に仕事で、山梨県の富士急ハイランドの近くに行ったときのこと、地元の店で夕食に食べたのがタラの芽の天ぷらだったのだ。とにかく、あれは美味かったね。しかも山国だけに、量のまあ多いこと。ビールのつまみとして頼んだのだが、いまでも思い出すほど強く印象に残っている。タラの芽は山菜にしてはアクも少なく、食べやすい食材なのだ。「山菜の王様」と呼ばれるのもむべなるかなで、さらには植物繊維はむろんのことビタミンB群、ビタミンC、カリウムなど、体に良さそうな栄養素も豊富。タラの木は棘だらけで近寄るのも危険なのに、芽の部分が優良食品というのが不思議といえば不思議だ。小林一茶の俳句に「たらの芽の とげだらけでも 喰はれけり」がある。

でもまあ、われわれの最も身近な草といえば、そこら中どこにでも生えているヨモギだろう。筆者はこのヨモギの入った草餅が好物なのだが、香りが良い上に食物繊維も豊富なので、日本人に一番人気の食べられる野草かも知れないね。フーテンの寅さんでお馴染み、葛飾柴又の帝釈天への参道には、名物の草餅を出す店が並んでいる。なにしろ、帝釈天(題経寺)のすぐ隣は江戸川の土手で、ヨモギがわんさか生えている。こうしたヨモギの新芽を摘んで蒸したあと、乾燥させると「よもぎ茶」の茶葉になるという。これにお湯を注げば、日本産ハーブティーの出来上がりだ。

筆者はこの「よもぎ茶」をまだ飲んだことがないが、YouTubeに作り方を紹介した動画があった。見れば意外に簡単そうなので、今度作って飲んでみようかと思っている。なんたって材料のヨモギは、そこら中で手に入るからね。このよもぎ茶には、免疫力向上や消化促進、アンチエイジングなど、さまざまな効能があるらしい。ホンマかいなという気もするが、もともとヨモギは万能薬として知られ、お灸で使うモグサの原料にもなる薬草だしな。信じる者は救われる。ほかにも探せば、春の野には体に良さそうな若芽・新芽が、ゴマンとあるのではなかろうか。



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Posted by 桜乱坊  at 11:54 │Comments(2)食べ物など

この記事へのコメント
久し振りにのぞいたら春の食べられる野草の記事でした。九州では、小川のセリと山のワラビとゼンマイ、野のツクシ、モチに味をつけるヨモギくらいしか摘んで食べなかったと記憶しています。こちらに来たら、東北の人は「草をよく食べる」のに驚きました。タラの芽、コシアブラ、野原のからし菜、花ワサビ、アケビの皮の乾燥させたもの、色々と食べるものを知りました。それが又美味いのですね。九州は温暖で食が豊かなせいか「草を食う」ことは比較的少ないと思います。でも、ツバナやスカンポ(佐賀弁の名前は忘れました)、佐賀弁のシーカイカイ(スイバ)を齧ったことを懐かしく思いました。
Posted by 桜田靖 at 2024年04月02日 21:04
追伸
フキノトウは、家の庭で採れるし、近所でも採れます。今年は二月の末に40ほど採集し、フキ味噌や味噌汁の具や和え物にし、余ったのは冷凍保存しています。フキノトウは弱毒なので水にさらして毒抜き、灰汁抜きをしています。その他に近所の土手でツクシを摘んで食べています。春を味わっています。なお、フキノトウは四個百円で売っています。だから、わたしは千円分のフキノトウを採集しました。
Posted by 桜田靖 at 2024年04月02日 21:13
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