2024年01月31日

月の輝く夜に

月の輝く夜に

♪あれをご覧と指さす方に~~、か(古い歌で失礼!)。しかし「大利根月夜」の平手造酒じゃないけれど、筆者がこのごろ見上げる月はひときわ感慨深い。というのも、日本が打ち上げた月面探査機「SLIM」が、日本時間の1月20日午前0時20分に無事、月面への軟着陸を成し遂げたからだ。この成功は、世界で旧ソ連、アメリカ、中国、インドに続いて5番目の快挙だという。しかも今回のSLIMは、目標地点からわずか横に55mズレただけの、ピンポイント着陸だというからスゴイ。なんたってコイツは、自律的に着陸場所を探してランディングする、まるでロボットみたいなスグレモノなのだ。

もっとも、ネット中継にかじりついていた筆者も、その瞬間の映像を見たわけではない。着陸が本当に成功したかどうかは、直後に行われたJAXAの発表を待つしかなかった。で、そのときの会見で国中均所長は、口を〝へ〟の字に曲げて「ぎりぎり合格の60点」、というキビシイ採点を付けていた。というのも、SLIMが送信した電波はちゃんと受信したものの、搭載した太陽電池パネルが稼働しなかったからだ。JAXAとしては軟着陸には成功したが、ひょっとして裏返しになっちまったのでは、という不安があったのだろう。せっかくの太陽電池パネルも、下向きじゃ永遠に発電しないものな。

だが、1月25日に行われた記者会見ですべてが明らかになった。SLIMは裏返しではなく、上下が逆さまの頭から着地していたのだ。公表された写真にはデデーンと逆立ちした、何となくマンガっぽいSLIMの姿がクッキリと写っていた。まさに動かぬ証拠。どこからか「変だよな」とか「カワイイ」とか、いろんな声が聞こえて来る。それでも、よかったよかった。頭からであれお尻からであれ、SLIMは見事に軟着陸に成功していたのだ。しかも、どこの国もまだなし得ていなかった、狙った的へのピンポイント着陸で。これは世界に誇って良い、日本の技術力の勝利だろう。太陽電池パネルも下向きではなく横向き(西側)だったため、太陽光の向きが変わった結果、今はすでに発電を始めたという。とにかく、よかったよかった。

おまけにスゴイのが、SLIMが着陸直前に放出した2つの小型ロボットだ。これは「LEV-1」と「LEV-2」という超小型の月面探査車で、LEV-2は野球のボールと同じ大きさの球形から、月面で小型カメラ搭載の2輪車に〝変身〟し、移動しながら撮影した画像を、LEV-1の通信機で地球に送信するというもの。JAXAが25日に公開したSLIMの倒立写真は、このLEV-2のカメラが撮ったものだったのだ。で、面白いのがLEV-2の愛称。これを「SORA-Q(ソラQ)」と呼ぶらしい。ん、だがちょと待てよ。変形型のロボットにして、「SORA-Q」というネーミングだと…? この二つから何かピンと来た人は、なかなかカンがよろしい。

実はこのロボットの開発には、日本のあるおもちゃメーカーが関わっていたのだ。変形型のロボットから「トランスフォーマー」を、「SORA-Q」から「チョロQ」を連想すれば、答えはすぐに出てくる。そう、そのメーカーとは「タカラトミー」だ。SORA-Qは、JAXAが同社やソニーグループ、同志社大学と共同開発した、変形型月面ロボットなのだ。月面探査車の設計に、おもちゃメーカーが参画する──。いいねえ、この辺のフレキシブルな発想が日本らしくて。筆者はSORA-Qが車輪を回転させて、砂上を移動するイメージ動画をネットで見たが、何となくユーモラスで可愛くてついホッコリさせられた。さすがは日本! おもちゃメーカーにはぜひこれからも、独自のノウハウとアイデアで、日本の宇宙開発に貢献してほしいものだ。

それにしても、日本製探査機が月面に着陸する日が本当に来るとは、筆者には何だか夢のようだ。思えば子供の頃に見た東宝特撮映画『宇宙大戦争』で、調査隊を乗せた有人宇宙ロケット「スピップ号」が、遊星人ナタールが待ち受ける月面に強行着陸したのは、何年前のことだったかなあ。あの時代のSFは打上げロケットそのものが宇宙船であり、地球と月の間を往復するという発想だった。つまり、巨大なスペースシャトル。ロケットの中には10人乗りくらいの月面探査車も積んでいて、調査隊はそれに乗りナタールの基地を偵察に行くのだが、あのときのドキドキ感はハンパじゃなかったね。襲って来たナタールの円盤に熱線砲で応戦する場面では、もうそれこそ血湧き肉躍ったものだったが…。

あれから幾星霜、思えば遠くへ来たもんだ。2024年の辰年に日本が月面に送り込んだSLIMは、大きさが2.4×1.7×2.7mで重量が200kgほどの小型無人探査機だ。大型有人宇宙船のスピップ号とは比ぶべくもない。おまけに月面探査車のLEV-1は重さ2.1kg、もう一つのSORA-Qにいたっては重さ250gに過ぎない。まさに、おもちゃのようなもの。だが、大きければ良いってもんじゃあない。これら超小型の探査機には日本の最先端科学技術と、ものづくりに掛けた様々な人々のアイデアが、ギュギュッと凝縮されているのだ。つまりコンパクトで超優秀という、メードインジャパンの特長を体現しているのが、いま月面で探査活動をしているSLIMというわけ。そう思って夜中に月を眺めれば、またその輝きが美しく見えるというものだ。



同じカテゴリー(身辺雑記)の記事画像
ビンの中の小さな世界
天真爛漫すぎる牧野富太郎
ヒバリよ、高く上がれ!
蔦屋重三郎、待ってました!
春の心は魚心
日本の無人販売所
同じカテゴリー(身辺雑記)の記事
 ビンの中の小さな世界 (2023-09-30 12:00)
 天真爛漫すぎる牧野富太郎 (2023-08-31 12:04)
 ヒバリよ、高く上がれ! (2023-05-31 11:59)
 蔦屋重三郎、待ってました! (2023-04-30 12:00)
 春の心は魚心 (2023-03-03 11:35)
 日本の無人販売所 (2022-08-31 12:17)

Posted by 桜乱坊  at 10:40 │Comments(0)身辺雑記

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。