2013年09月28日

棒ラーメンは九州の味

棒ラーメンは九州の味

夏から秋に季節が移ると、やはり温かいものが食べたくなって来る。ただし鍋ものを突つくには、まだちょっと早いし──。こんな季節の変わり目につい恋しくなるのが、麺類なんじゃないだろうか。で、そんな食の欲求に素早く応えてくれるものといえば、やっぱりインスタントラーメンということになる。むかしは「即席ラーメン」と言ったけど、思えば筆者が若い頃から、これほどお世話になった食べ物もないもんだ。

近頃はカップ入りの麺が主流だが、やはり本来は袋入りのものを自分で作り、好きな具材を乗せて食べるのが王道だろう。何といっても、コトコト鍋で煮た麺に粉末のスープを入れ、ドンブリに移すときのあのワクワクした感じがいい。つまりそこにはカップ麺では味わえない、何かモノづくりの高揚感のようなものがあるのだ。筆者の学生時代のごちそうは、これに生卵を一個だけ落としたものだったが、あれは本当にうまかったね。スープに残した半生の黄身を最後にズズーッと吸い込むときなど、もう至高のヨロコビと言ってもよかったなあ。

こんなインスタントラーメンの種類はいまや無数で、カップ麺に袋入り麺を合わせれば、どれだけの商品が出回っているのか想像すらつかない。味噌味に醤油味、塩味に豚骨味と、筆者もこれまで数えきれないほどのラーメンを食して来たが、いまだに飽きないことを考えれば、これは本当に偉大な発明品だったのだな。開発者である日清食品の安藤百福さんには、感謝してもし足りないというものだ。同社のチキンラーメンにも、むかしからずいぶんお世話になったし…。

ところが最近、筆者はある商品を“発見”して驚いている。いや正確に言えば“再発見”だが、その驚きの商品こそ何を隠そう、あの懐かしいマルタイの「棒ラーメン」なのだ。たまたまスーパーの商品棚の片隅で、ひっそりと身を潜めていた縦長の袋を見付け、何気なく買って帰って食べてみたところ、改めて「ああ、棒ラーメンってこんなに美味かったのか!」と感動したのが、久し振りの再会だったというわけ。とにかく、ストレートでコシのある細い麺といい、深みのあるとんこつスープといい、生の九州ラーメンに最も近い味と言えば、やっぱりこれに尽きるんじゃないだろうか。

思えば筆者が子供の頃から食べていた即席ラーメンとは、紛れもなくこの棒ラーメンだった。麺の上に刻んだ青ネギを乗せただけのシンプルなラーメンは、いま思い出してもお袋の味の一つであり、深夜の受験勉強のときなどはよく作って貰ったのを思い出す。その頃すでに麺を油で揚げたタイプも売り出されていたが、筆者の主な夜食といえば、やはり胃もたれしないサッパリ系の棒ラーメンが一番だったね。

そんなラーメン大好きの九州人が棒ラーメンと縁遠くなるきっかけは、たいてい地元の九州を離れて異郷で暮らし始めたときだろう。筆者の場合も高校を卒業して東京に移り住んで以来、棒ラーメンは身近な存在ではなくなった。何といっても向こうでは、どこの店へ行っても商品棚にそんなものは無く、代わりに並んでいるのは日清食品や東洋水産といった、大手メーカーの揚げ麺系ラーメンばかり。ああ、棒ラーメンは九州のローカル商品だったのかと気付いたときには、すでに筆者もズッポリとこれら揚げ麺の虜になっていた、というわけ。

ただし、こう書くとまるで揚げ麺系ラーメンが悪いみたいだが、別にそういうわけではない。あの油で揚げた縮れ麺の風味や食感などには、また棒ラーメンにない独特の良さがあり、万人を惹き付ける魔力のようなものがあるのだ。しかも、スープの種類は豊富ときている。今やこのタイプのラーメンは世界中に進出し、各国の人々から愛されているというからスゴいじゃないの。なので筆者がいつの間にか故郷の棒ラーメンを忘れ、都会のラーメンに染まって行ったとしても、誰も責めることは出来ないよね。なんだかこれって、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』のような話かな…?

かくして、東京ですっかり揚げ麺系に宗旨替えした筆者だったが、九州以外の出身者にとってこの棒ラーメンは、とても珍しい存在のようだ。かつて、友人たちと連れ立って新横浜にある「ラーメン博物館」を見学(と味見)したとき、展示してある商品などを見ながら各々、自分の地元産のインスタント麺を自慢し合ったことがあった。むろん、筆者はこのとき熱く棒ラーメンを語ったのだが、残念ながら周りはみんな九州以外の出身者ばかり。手応えの薄さにガッカリしたのを思い出す。というか、世の中にそんなものがあるのかいな?という、不思議そうな顔を誰もがしていたっけ。

まあ、油で揚げた縮れ麺しか知らない人々にとって、ソーメンみたいに真っ直ぐで束になったインスタントラーメンなど、にわかには想像し難いものなのだろう。調べてみると棒ラーメンは昭和34年(1959)に、マルタイ(福岡県)やサンポー食品(佐賀県)などが発売したのが最初で、その後次々と九州の他のメーカーも作り始めたらしい。やはりこれは、根っからの九州生まれ九州育ちなのだ。どうりで他地域の連中が知らないはずだよ。ちなみに今では「棒ラーメン」の名称はマルタイが商標登録していて、他のメーカーの商品は正しくは「棒状ラーメン」と呼ぶらしい。

今では筆者もふたたび佐賀の地に戻り、棒ラーメンはまた身近な存在になったが、とにかく硬茹でした麺のモチモチした食感や、白く細く真っ直ぐなところなどは、九州ラーメンの特長そのものと言えよう。揚げた縮れ麺に比べればボリューム感こそ劣るものの、さっぱりしたすすり易さや喉越しの良さはやはり最高だ。またそこが逆に、こってりした豚骨スープとも合うんだよね。思えばこいつの“再発見”は筆者にとり、忘れていた幼馴染みの彼女と道でばったり出会い、むかしの恋が蘇ったという感じだろうか…。



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Posted by 桜乱坊  at 12:00 │Comments(2)食べ物など

この記事へのコメント
ちょっととろみのあるスープ、よーく冷まさないとやけどしますよね。私も年に1~2回食べるとき、ああこれこれと妙に納得するものです。
Posted by きんちゃん at 2013年09月30日 17:21
きんちゃんさん、コメント有り難うございます。
そう、たまに食べて懐かしさを再認識するのが、棒ラーメンの味わい方かも知れませんね。
Posted by 桜乱坊桜乱坊 at 2013年09月30日 22:38
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