2021年12月31日
ファンファーレの効用

コロナで明け暮れた2021年が終わり、いよいよ2022年が始まる。人類を苦しめたウイルスにはそろそろ退散して貰って、新しい年は気分も一新、清々しい気持ちで臨みたいものだ。塩でも撒いてお清めをするのも良いだろう。日本にはそうしたお清めの儀式が沢山あるから、正月には神社仏閣やその他それぞれの場所で穢れを落とし身を清め、心身ともにスッキリした形で一歩を踏み出したいね。
こんなときにファンファーレでも鳴ると、ようし今年はやるぞ!という気分も高まりそうな気がする。何といってもファンファーレは、その場の空気を一瞬に変え、人々を厳粛な気分にさせ、これから始まる〝何か〟に対する期待感と高揚感を盛り上げる最高のツールなのだから。それまでざわついていた観衆がピタリと静まり、トランペットの音が高らかに鳴り終えると、一気にその場が祝祭空間になるのを筆者はこれまで何度も見て来た。良いんだよねこれが。誰か「新年のファンファーレ」みたいなものを作曲してくれないかな?
ファンファーレといえば、やはりスポーツの大会で吹奏されることが多い。筆者が記憶に残るファンファーレの名曲といえば、やはり1964年の秋に開かれた東京オリンピックのアレだろうな。この曲は当時、諏訪交響楽団の指揮者を務めていた、今井光也氏によって作られたもので、どこか和と洋の旋律が融合したような、ゆったりした典雅な曲調なのが素晴らしい。何度聴いても感動するというのは、こういう曲のことを言うのだろう。このファンファーレの後に、古関裕而氏の「オリンピック・マーチ」が流れると、筆者などはもう血が騒ぐのだ。
東京オリンピックのファンファーレが、シンプルなトランペットの編成で吹奏されたのに対し、多彩な楽器の編成でドラマチックに演奏されたのが、1984年のロサンゼルス・オリンピックのファンファーレだった。作曲者はあの「スター・ウォーズ」の映画音楽で知られるジョン・ウィリアムズ。いかにもアメリカ的な明るく勇壮な曲は、いま聴いても現代的でカッコ良い。やっぱりこの人、音楽界の名匠なんだな。この曲とともに筆者の目の前には、カール・ルイスの超人的な疾走や跳躍、体操の具志堅選手や森末選手の笑顔が目に浮かぶのだ。ああそういや、ソ連がボイコットした大会でもあったっけ。
映画音楽で思い出したが、20世紀フォックスの映画が始まる前のファンファーレも忘れ難い。あの、画面いっぱいに「20th」と「CENTURY」と「FOX」の文字が3段重ねになった、巨大ロゴにサーチライトが照らされ、おなじみのファンファーレが高らかに鳴り響けば、映画ファンは誰もが胸のトキメキを覚えるのだ。これから何かワクワクすることが始まるぞ!とね。それは素敵な夢と冒険と愛の物語が待つ、アメリカ映画への入口なのだ。同社のファンファーレは、いやが上にもその期待を掻き立たせる、まるで魔法の音楽のようでもある。ある意味これは、世界で最も有名なファンファーレなのかも知れないな。
もっとも、20世紀フォックスを運営していた会社は、2019年にディズニーによって買収され、社名を「20世紀スタジオ」に変更されてしまった。そのためオープニングの巨大ロゴのうち、「FOX」が「STUDIOS」に入れ替わったが、幸い基本的なデザインやファンファーレはそのまま残された。なので印象はほとんど変わらず、映画ファンはホッとひと安心。そりゃまあ、あのロゴやファンファーレを廃止してしまったら、世界中の映画ファンがきっと暴動を起こすはずだしね。
おっと、ファンファーレで忘れちゃいけないのが、やはり競馬のG1レースだろう。G1とは競馬の最高格付けのレースで、そこには天皇賞とか日本ダービーとか有馬記念とか、競馬ファンならずとも誰もが知る名前が並んでいる。これらのレースは日本の主だった競馬場で開催されるが、どうやら各競馬場ごとに演奏される曲は違うらしい。中でも有名なのが、東京競馬場や中山競馬場で使用される、すぎやまこういち氏作曲のファンファーレだろう。テレビなどで一度は聴いたことがある、という人も多いはず。すぎやま氏といえば筆者世代には、「恋のフーガ」や「亜麻色の髪の乙女」など和製ポップスの名曲が頭に浮かぶが、現代のゲーム好きには「ドラゴンクエスト」のテーマと言えば通りが良いかも。
競馬場のファンファーレのスゴいのは、とにかく場内が盛り上がるところ。なにしろ観客はほとんど男ばかりで、熱気が異様に凄まじい。それまで不穏なざわめきを見せていた大観衆が、待ち兼ねたように手拍子を始め、華やかなファンファーレが鳴り終わると同時に、ウォーッとばかり地鳴りのような雄叫びを上げるさまは、まるで金持ちの蔵を襲う野盗の群れのようだ。何といっても、誰もが馬券を手にしている。そこには金と人生が賭けてある。この場合のファンファーレは祝祭の花火であり、同時に導火線に火を点ける火花の役目なのだろう。
ここでサッカーファンの筆者として、日本サッカー協会にちょいとお願いがある。それはサッカーの試合にも、このファンファーレを導入してほしいということ。その試合というのは、年間のサッカーシーズンの掉尾を飾る天皇杯決勝戦だ。何といってもこの一戦、伝統ある天皇賜杯をめぐる頂点の戦いであり、翌年のACL出場権もかかっている。いつ優勝者が決まるか分からないリーグ戦と違って、カップ戦の優勝者は日時の定まった一戦で決まる。そのカップ戦の最高峰が天皇杯だ。しかも天皇杯の決勝戦には、決まって満員の観衆が詰めかける。もしその選手入場の前に、華々しくも勇壮なファンファーレが鳴り響けば、場内の興奮は最高潮に達すると思うのだがどうだろう。協会さん、一度検討してくれませんか?
この記事へのコメント
かつて羽田空港が唯一の国際空港でした。その頃に外事警察でいて、国賓などの警備に駆り出されました。自衛隊儀仗隊と音楽隊のファンファーレの栄誉礼、それに歓迎の祝砲を何度も聞いて懐かしい思い出です。昭和天皇が、祝砲の大砲の音に驚かれたのか思わずよろめきそうになられ、入江侍従長とか当時の宇佐美宮内庁長官があわてて寄り添ったことも目撃しました。こういう時は、警察庁長官、警視総監も出迎えていて、警視庁警備部長以下警備はピリピリしていました。なお、国賓は代理通関で空港ゲートからお迎えの車列を組んで出て行かれます。これに向かって敬礼できるのは機動隊の隊長だけでした。他は車列に背を向けて周囲を警戒します。明治時代、「大津事件」といって、帝政ロシヤの皇太子を直近で警備の警察官がサーベルで斬りつけました。幸いなことに軽傷でしたが、時のロマノフ王朝の高官はいかり心頭、日本政府腑に警察官の死刑を要求しましたが、すでに主権国家として法的整備をしていた日本政府は毅然と国内法で裁き、死刑にはしませんでした。とにかく外国要人に何か有事が起きると警視総監の進退問題になるのです。外事警察の任務は今も重いです。
Posted by 小畠吉晴 作家のペンネーム桜田靖 at 2022年01月02日 15:04