2017年02月18日
懐かしのボンタンアメ

先日、知り合いから「ボンタンアメ」をひと箱貰った。そう、あのボンタンアメだ。懐かしい箱のデザインに思わず頬が緩んだが、さっそく食べた味もまた懐かしさ溢れるものだった。何というか甘くてほんのり酸っぱく、キャラメルともひと味違う餅のような独特の柔らかさ(歯にくっつくんだよね)。“ああ、これこれ!”と嬉しかったが、思えば筆者が口にしたのは何年ぶりだったろうか…。なにしろアメを包んであるオブラートを、つい剥がしそうになったくらいだもの。
そもそも、ボンタンアメがむかしと全く変わらぬパッケージで、今も売られていることに筆者は驚いた。何たってこの商品、筆者が子供の頃からよく知られており、特に駅の売店などでは「都こんぶ」と並んで必ず目に入る、憧れのツートップの片方だったのだ。そこには昭和の匂いが漂い、紫の地に黄色いボンタンが描かれた箱は、当時から既にレトロな雰囲気に包まれていた。もっとも、ほの甘く上品な味と香りのそのアメは、どぎつい甘さの駄菓子に慣れた子供の舌には、ややもの足りなくもあったのだが…。
あらためてボンタンアメの箱の裏を見ると、製造しているのは鹿児島市にあるセイカ食品という会社。おお、お前は薩摩っぽだったのか! さっそくネットで調べてみたら、なんとこのアメは大正13年生まれということが分かった。恐るべきロングセラー商品ではないか。水飴・砂糖・麦芽糖・もち米を主原料に、鹿児島県阿久根産の文旦などの果汁で風味をつけてあるといい、筆者はふと中学生のとき、阿久根市の女の子と文通したことを思い出した。モチモチした食感はどうやらもち米のせいらしいが、ソフトキャンディーのハシリとも言えるこのアメ、あんがい時代を先取りしていたのかも知れないな。
ところで筆者が東京に住んでいた頃、JR駅のキオスクや地下鉄の駅の売店などでも、このボンタンアメをよく見掛けたものだ。そればかりか東京生まれの知人の女性も、ボンタンアメのことをよく知っていた。どうやらこのアメは九州ローカル商品などではなく、スーパーや一般商店などを中心に日本全国で販売されているようだ。つまり意外にも全国区。ただし、めったに食べないのによく知られているのは、やはり駅の売店という目立つ舞台で、都こんぶとまるでペアのように並んでいるからだろう。
そこでツートップのもう片方である、都こんぶについても調べてみた。すると分かったのは、製造元が中野物産という大阪府堺市の会社だということ。この商品の原型が出来たのは昭和6年で、創業者である中野正一氏が生まれ故郷の京都を偲び、「都こんぶ」という名前をつけたのだという。ボンタンアメほどではないが、こちらも長い歴史を誇る銘菓だったってわけだ。あの小さな赤い箱に描かれた桜のマークは、古都・京都に咲いた桜のイメージだったのだな。
むろん筆者は、都こんぶも買って食べたことがある。表面に白い粉のついた酢昆布は、噛んでいるうちに甘さと旨味が口の中に広がり、ほど良い柔らかさになってやがてトロリと溶けて行く。この絶妙のハーモニーがクセになり、つい後から後から食べてしまうのだ。しかもこんぶなので噛み心地が良いし、何より体にも良さそう。一風変わった駄菓子として今も人気が高いのは、日本人とこんぶの旨味との相性がピッタリ合っているからだろう。
まあこうして並べてみると、ボンタンアメと都こんぶはけっこう共通点がありそうだ。まず、どちらも長い歴史を持つ庶民の銘菓であり、駅の売店の必須アイテムとして、むかしから国民に親しまれて来た。パッケージのデザインも時代に迎合せず、かたくなにレトロ調を守っている。なのでオールドファンには懐かしく、若い購買層にはかえって目新しく映るのかも知れないな。そして何よりの特長は、どちらも他にないユニークな味だということだ。
駅の売店にあるキャラメルやガムやチョコに比べると、その味はひときわ異彩を放っている。どちらも甘さは控え目で、酸っぱさや旨味や噛み心地という、大人の味覚を刺激するつくりになっている。しかも和のテイストなのだ。このシブさが他の洋菓子にはないところ。毎日食べたいとは思わないが、ふと見付けるとつい懐かしい味に惹かれて、誰もが買ってしまうのだろう。そこが良いんだよなあ。
つまりボンタンアメも都こんぶも、“大人の味”であり“旅の味”なのだ。特別、目の球が飛び出るほどウマいわけではないが、口に入れておけば噛むほどに味わいが広がり、車窓を眺めながらしばらく旅の風景を楽しむことが出来る。ゆったりとした時間が流れ、そこに甘くて酸っぱい思い出が生まれる。チューインガムじゃこうはいかないもんな。まさに大人のための駄菓子。今度、駅の売店で見掛けたら、筆者もまた買ってみようかな…。
「最新の記事」を開いた瞬間「おぉぉーー!」って(笑)
引き寄せられいっきに読んでしまいました。
やっぱり文章がうまい(爆)(プロに対して失礼)
鹿児島のアンテナショップで例のあれと一緒に行くたびに買っています。
実はいま東京ではなく
南国人間が寒い北国生活に憧れて
いま3ヶ月長野県で暮らしています。
大人にとってボンタンアメの甘酸っぱさは、やっぱり思い出の味ですね。
あのモチモチ感が何とも言えないし、
歯にくっついて取れないところもまた乙なもんです。
しかも、包んであるオブラートごと食べられるし…。
ひょっとすると、長野県でも売っているんじゃないでしょうか?