2021年07月31日

美味いソーメンの食べ方

美味いソーメンの食べ方

暑い夏にはどうしても食欲が落ちる。で、そんなときはどうしても、ツルツルッとすすれる冷たい麺類が食べたくなる。何しろ噛まずにそのまま呑み込んで、喉越しを味わうのが快感なのだ。まるでヘビみたいだが、この喉で味わうという感触がまた捨てがたい。これは餅などにも言えることで、そういえば佐賀県の白石町には、有名な「餅すすり」という風習がある。湯につけた餅を噛まずにすするという食べ方で、ときどき窒息して死ぬ人も出る危険な荒技だが、喉で美味さを味わいたいという気持ちは何となく理解できる。

冷たい麺類といえば、筆者のファーストチョイスはざる蕎麦だ。蕎麦猪口のつゆに冷たい蕎麦をひたし、一気にズズッとすするときの快感は何ものにも代えがたい。天麩羅の添え物があれば、もう言うことなしだ。セカンドチョイスは、やっぱりざるうどんかなあ。こちらは蕎麦よりかなり太いが、そのぶん喉越しも手応え十分。おまけに鰹ダシのつゆもいいが、胡麻味噌のつゆでもいけるところが良い。呑み込みにくいときは軽く噛めば、小麦粉の風味を楽しむことも出来るものな。そして筆者にとり、〝第三の男〟がソーメンということになる。

ソーメンが3番目なわけは、やはり蕎麦やうどんに比べてあまりに細く、さらには淡白で消化も早いため、なんとなく物足りなさを感じるからだ。とりあえず腹はふくれるが、充実感はいま一つという感じだろうか。少なくとも以前まではそうだった。だが筆者は最近になって、自分のソーメンの食べ方が間違っていたことに気づき、考えを改めることにしたのだ。この歳になって、ようやく知ったお前の魅力というわけだが、思えばずいぶん遠回りをしたもんだ。ソーメンよ許してくれ、アーメン。

間違いのその1は、ソーメンの茹で時間だった。筆者はそれまで、ソーメンとは柔らかいものという先入観に囚われ、長く茹ですぎていたのだ。そのため出来上がったものは、いつもグニャリと柔らかく、シャキッとしたコシがなかった。つまりソーメンを、九州の柔らかいうどんと混同していたんだな。ある日この間違いに気付いた筆者は、箱に同封された説明書どおり、茹で時間をキッチリ2分にして氷水に冷やし食べてみた。すると、その美味さにビックリポン! 目から鱗とはこのことだ。コシのあるソーメンは、それまで筆者が食べていたものとは別物のようなキリッとした食感で、喉越しも最高なのだった。ソーメンの命はコシだったというわけだ。

間違いのその2は、ソーメンの盛り付け方だ。実は長いこと筆者は、ソーメンとは氷水を入れた容器に浮かべて、そいつを箸ですくって食べるものだと思っていた。まあ見た目も涼しげだからね。ところが実際は、これだとソーメンが水っぽくなり、鰹ダシのつゆもしだいに水で薄味になる。これじゃ最初と最後では美味さも違って来るし、ソーメンも実力を発揮しづらいはず。そこで氷水の容器ではなく、ざるやお皿に乗せ水気を絞って食してみたところ、やはり筆者は感動の美味さを味わうことが出来たってわけ。またまた目から鱗が落ちたのだ。やはりソーメンと家電の説明書は、しっかり読むべきものなんだな。

ちなみに同じ麺類でも、蕎麦やうどんは「手打ち」なのに対し、ソーメンが「手延べ」なのは、製法が異なるからだ。例えば手打ち蕎麦は、蕎麦粉に小麦粉と水を加えよくこねたものを、麺棒で平たく伸ばし包丁でサクサクと細く切って作る。手打ちうどんは小麦粉に塩と水を混ぜ、よくこねた後しばらく寝かせ、やはり麺棒で平たく伸ばし包丁で麺状に切って作る。この場合の「打つ」とは、刀鍛冶が鉄を叩いたり伸ばしたり鍛えたりして、「刀を打つ」のと同じような意味らしい。なるほど、麺を打つのと刀を打つのは、どこかで通じる男っぽい職人芸なんだな。どうりで手打ち蕎麦も手打ちうどんも、断面にエッジが利いてて喉越しがシャープなわけだ。

一方、手延べソーメンは作り方がまるで違う。小麦粉に塩と水を混ぜ、よくこねるところまではうどんと同じだが、違うのはここからで、丸い棒状にしたものに食用油を塗りながら、引っ張って徐々に細く延ばして行くわけ。そのとき、何と言っても凄いのがグルテンの力だ。小麦粉と水をこねると生まれるグルテンは、しばらくするとまるでチューインガムのような粘りを発揮する。手延べソーメンは、このグルテンの驚異的な粘り強さを利用して、幾度もの工程をかけ極限まで細く延ばして作られる究極の乾麺なのだ。そのため、ソーメンの断面は角のない円形で、喉越しもツルッと滑らかなのが特徴だろうか。

同じ製法で作られるものに手延べうどんがあるが、手延べソーメンとの違いは麺の太さだ。あまり知られていないが、日本農林規格(JAS規格)には、「乾めん類品質表示基準」というものがあるらしい。これによれば(機械麺の場合)、ソーメンの太さは直径1.3mm未満とされており、これより太い直径1.3mm以上1.7mm未満はひやむぎ、1.7mm以上はうどんと分類されるのだとか。筆者がたまに貰ったりするあの「揖保乃糸」には、直径0.65~0.70mmという極細のソーメンもあるが、これなどはもう日本が世界に誇れる乾麺の芸術品じゃないのかな。

ところで筆者のように腹の出た人間には、ソーメンは低カロリーでダイエットに良いという噂が気になる。これは本当だろうか? 調べて見ると同じ量の場合、ソーメンのカロリーは白飯より低くうどんより高いのだとか。うどんより高いというのは意外だが、それでも白飯より低いのはやはりダイエットに効果があるということだ。ようしこうなったら筆者も今夏、ソーメンでダイエットに挑戦してみようかな。ただし、喉越しを味わうため噛まずに呑み込むと、今度はついつい食べ過ぎてしまい、そうなれば逆効果になってしまう。結局、美味いソーメンはダイエットにとり諸刃の剣ということか…。



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Posted by 桜乱坊  at 12:02 │Comments(0)食べ物など

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