2019年07月31日

開幕近づく東京オリンピック

開幕近づく東京オリンピック

梅雨が明けたと思ったら、佐賀地方は猛暑が続いている。これから気温35度以上の猛暑日が続くかと思うと、気が滅入るばかりだ。ちなみに30度以上の日は真夏日と呼ぶらしいが、そんなことはどうでも良い。とにかくムチャクチャ暑い日が、今後しばらく連続することは間違いない。筆者も麦茶をがぶ飲みし塩飴でも舐めて、熱中症対策を怠らないようにしなければ…。

そんなとき、来年の東京オリンピック開幕まで1年を切った、と言うニュースが伝わって来た。そうなのだ、調べてみると開会式は2020年の7月24日、サッカーやソフトボールはその前の22日から始まるらしい。これはちょうど日本列島が梅雨明けし、猛暑が始まる時期にあたるのだ。水泳や屋内スポーツならいざ知らず、よくもまあこんな地獄の季節にやらせるもんだと呆れるが、どうもその裏には莫大な放映権料を払うテレビ局の意向が働いているという。

何かというと、9月に入ればアメリカのプロフットボールが、ヨーロッパではサッカーのUEFAチャンピオンズリーグが開幕し、米国と欧州で超強力な人気を誇るこの二つのコンテンツに、オリンピックを被せることは出来ないというわけ。つまりテレビ局としては、人気スポーツイベントをうまく分散して、視聴率を稼ぎたいという裏事情があるらしい。可哀想なのはそのとばっちりで、7・8月の真夏にオリンピックで戦わされる選手たちだ。つまりはIOC(国際オリンピック委員会)も、テレビ局の金の力には勝てないと言うことか。情けないねえ。

思えば1964年の東京オリンピックは、秋晴れの10月10日に開会式が行われた。筆者はテレビ中継でこの開会式を見た世代で、そのせいかオリンピックは秋にやるものというイメージが強い。市川崑監督が指揮をとった映画『東京オリンピック』は、いまもYouTubeで公開されているが、美しいカラー映像には真っ青な秋空の下、堂々と入場行進する各国選手団の様子が克明に描かれている。筆者などこの入場式のシーンを見るたびに、あの日の感動が甦って来るんだなあ。やっぱりオリンピックと学校の運動会は、秋にやるもんでしょ。

その中で強烈な印象を残しているのが、入場行進に使われた『オリンピック・マーチ』という曲。筆者はこの曲が鳴り響き、ギリシャを先頭に選手団が入場して来たときの胸の高鳴りをよく覚えている。この行進曲の作曲者は、著名な作曲家だった古関裕而氏。それは初めて耳にしたときから一瞬で心を掴まれ、思わず体が動き出しそうになる軽快で明るい曲だった。おそらく、全国でこの入場行進を見ていたすべての日本人も、筆者と同じ心境だったんじゃなかろうか。

何たって1964年といえば、日本が太平洋戦争に敗れ無条件降伏をした1945年から、わずか19年しか経っていない。東京は米軍の空襲により一面の焼け野原となったが、そこから驚異の復興を見せ、なんとか第18回のオリンピック開催にこぎつけた。よくぞここまで来たもんだ。市川崑監督の映画には、そうしたまだ復興途中の貧しくも活気に満ちた東京の街が、はっきりと映し出されている。つまり日本が敗戦のトラウマから抜け出して、ようやく自信を回復し始めた時期に、東京オリンピックは開催されたのだ。なので『オリンピック・マーチ』は、その時代の日本人を高揚させ、大きな勇気と感動を与えたに違いない。

考えてみれば音楽は国民の心を慰め、一つにまとめる力を持っている。特に、逆境の時代にあってはそう。人々を奮い立たせ苦難に立ち向かわせるため、絶大な力を発揮する。例えば、筆者の好きなシベリウス作曲の交響詩『フィンランディア』は、ロシアの支配下で圧政に苦しんだフィンランド人に、大きな勇気を与えたことだろう。ロシア政府はこの曲の演奏を何とかやめさせようとしたが、国民はそれに立ち向かい唯々諾々と従うことはしなかった。さすがは粘り強いフィンランド人。その後、ロシアからの独立を果たした彼の国では、この曲の一部が今も第二国歌として親しまれているというから偉い。

また、チャイコフスキーの序曲『1812年』や『スラブ行進曲』は、ロシア人をきっと大興奮させたはずだ。なにしろ『1812年』は、侵攻して来たナポレオン軍をロシア軍が撃退するという音楽で、オーケストラの演奏中に大砲(実際は大太鼓)が鳴り響くのだからスゴすぎる。さらにまた、ポーランドの作曲家ショパンが作曲した音楽は、ナチスドイツに侵攻されたポーランド国民を勇気づけ、ワルシャワ陥落の際にはラジオ局が『軍隊ポロネーズ』を流し続けたと言われている。さらにまた、フランスの国家『ラ・マルセイエーズ』はフランス革命の最中に、工兵大尉が部隊を鼓舞するため作曲したもので、現在ではサッカーの国際試合などでも高らかに歌われている。

そうした意味でも古関裕而の『オリンピック・マーチ』は、日本人を勇気づける代表曲と言っても良いだろう。そもそも筆者らが知っている古関氏といえば、阪神タイガースの応援歌や、夏の甲子園の高校野球の大会歌、また『モスラの歌』などがポピュラーだが、その全容を知れば知るほど仕事の幅の広さに驚かされる。とにかくクラシックの交響曲から、映画音楽に数々の歌謡曲、またNHKのスポーツ中継のテーマ曲もお馴染みだ。行進曲の素晴らしさは「日本のスーザ」と呼ばれるほど。

名曲揃いの作品の数々だが、しかし古関氏のもう一つの特筆すべき作品ジャンルに、戦前戦中に作られた軍歌がある。『ラバウル海軍航空隊』とか『若鷲の歌』とか、いまでもカラオケで歌われる名曲が多いが、戦後はかえってそれが仇となった。本人もそのためにずいぶん苦しんだことだろう。自分の軍歌で、多くの若者を戦場に送り出したのではないか、と…。また、自虐的で反戦気分の強かったあの時代には、左翼陣営から責められもしたはずだ。世の中には変わり身の早い人間も多いのでね。

『オリンピック・マーチ』はそうした古関氏が、自問自答の末にたどり着いた、平和日本への祈りを込めた行進曲なのだろう。日本人よ、自信と勇気を取り戻して前に進もう──軽快で躍動的な曲調は、そう呼びかけているように聞こえる。この曲のラストの部分には、国歌『君が代』のワンフレーズが織り込まれている。それは古関氏による祖国への、万感を込めたオマージュだったはず。その意味ではこの曲は、敗戦から立ち直った日本が、復活を宣言するものだったのかも知れないな。

こうなると来年の2度目の東京オリンピックで、筆者などは再びこの『オリンピック・マーチ』を聴きたくなる。昨今のダラダラした入場式はもう飽きた。オリンピックの入場行進は、やはりふんどしの紐をビシッと引き締めてやって貰いたいね。それになんと言ってもこれは、日本人を勇気づける曲なのだ。長引く不景気から立ち直り、日本全体が復活するという宣言を、この曲でぜひ高らかにやって欲しいものだ。



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Posted by 桜乱坊  at 14:20 │Comments(2)本・映画・音楽などスポーツ

この記事へのコメント
ウンウン、始めから終わりまで、激しく賛同!
熊本 鶴
Posted by 熊本 鶴芳則 at 2019年07月31日 16:30
熊本の鶴さん、お久しぶりです。
暑い日が続きますが、寝る前にYouTubeで『オリンピック・マーチ』を聴くと、気分がスッキリしますよ。
Posted by 桜乱坊桜乱坊 at 2019年07月31日 22:51
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