2009年08月19日
イチローの不思議

筆者は、メジャーリーグ(MLB)の野球にはまるで興味がない。だが、シアトル・マリナーズのイチローの活躍はよく知っている。なにしろNHKが通常のニュース番組のたびに、イチロー選手が今日の試合で何本ヒットを打ちましたとか、微に入り細を穿って報道するものだから、つい耳に入ってしまうのだ。
公共放送であるNHKが、そこまでMLBに肩入れする必要もないと思うのだが、たぶん莫大な放映権料を支払っているため、彼らとしては何としても放映する試合の視聴率を上げたいのだろう。なにしろそのお金は、みなさまから徴収した受信料から出ているのだから。これが低視聴率だったら、言い訳が立たないものなあ。
それをさておいても、イチローのヒット量産力は凄い。なにしろ左打者で無類の俊足に加え、天才的なバットコントロールの持主ときている。来たボールを軽く左に流し打ち、相手チームの大男の野手がモタモタと捕球に手間取っている隙に、一気に一塁ベースを駆け抜ける。それだけで、まるで弁慶を翻弄する牛若丸みたいに、軽々とヒットを量産して行く。むろんバットをボールの芯に当て、右中間に飛ばすパンチ力もあわせ持っている。まさに緩急自在の天才打者なのだ。
だが、そんなイチローの所属するシアトル・マリナーズの戦績はといえば、これがどうにもパッとしない。チームが所属するアメリカンリーグ西地区は、わずか4チームで構成されるのだが、マリナーズの成績は2004年から2006年まで3年連続で最下位だ。2007年に頑張って2位になったのも束の間、2008年のシーズンはまたしても定位置の最下位に逆戻り。しかも、2004年と2008年のチームの勝率が3割台と来ては、これはちょっとヒド過ぎだろう。
つまり不世出の天才打者イチローは、もう何年も優勝とは無縁のどん尻チームで、コツコツとヒットばかりを量産していることになる。これはまるで、かつて優勝とは無縁のロッテ・オリオンズにいた落合博満が、狭い川崎球場を本拠地にしてヒットやホームランを量産していた構図と、ちょっと被るんじゃないのかな。観ていたのは無人のスタンドだけだった、なんてね…。ただし落合はその後、中日ドラゴンズや読売ジャイアンツに移籍し、優勝に貢献する働きをしているので、まだ評価出来るのだが。
筆者が不思議に思うのは、イチローは果たしてこれで満足なのだろうか?ということ。やはりプロの野球選手として一番の目標は、チームを勝利させ自分がそれに貢献することだろう。優勝のかかった舞台で最高の活躍をしてこそ、選手としての価値が認められ、真の栄誉が与えられるはず。つまり、優勝とは無縁の試合で打った200本のヒットより、勝つしかないというプレッシャーの掛かった試合で打つ50本のヒットの方が、はるかに価値があると筆者なんかは思うのだ。
イチローはなぜ移籍をしないのだろう──? もちろん高額の年俸でチームと契約しているため、移籍すればとんでもない違約金が派生するのは分かる。だが彼ほどの選手なら、それを払ってでも獲得したいというビッグな球団が現れても、少しも不思議ではないはず。マリナーズにだって、もう十分以上に義理は果たしたはずじゃないか。現にサッカーの世界では、トップクラスの選手たちはより大きな報酬と栄光を求めて、移籍を繰り返している。
例えば韓国代表のパク・チソンはかつて、京都パープルサンガからオランダのPSVへ移籍したが、彼がそこで満足していたら、現在のマンチェスター・ユナイテッドでの活躍はなかっただろう。また、同じマンチェスター・ユナイテッドのC・ロナウドやACミランのカカなどは、安定した古巣での地位や報酬を捨て、さらに大きな成功を求めて、今季からスペインのレアル・マドリードへ移籍している。これなどはビッグクラブからビッグクラブへの移籍だが、戦いのスタイルや種々の環境の違いなどリスクも含んでいる。それでも行くんだよなあ。
筆者にはどうもイチローが、現状で満足しているように見えてしょうがない。今のままなら、優勝のプレッシャーのない試合ばかりで、ヒットを打つのは容易だし、高額年俸は保証されている。おまけに日本では「世界のイチロー」と喧伝され、人気は抜群でCMにも引っ張りだこ。もうすでに一生、遊んで暮らせるほどの報酬は稼いだはずだ。だが、それでいいのかな?と筆者は思う。
彼に望む道は、ただ一つ。まだ実力が低下しないうちに、MLBのトップクラスの球団に移籍して、優勝争いに貢献すること──これしかない。イチローの実力ならそれが十分可能だと筆者は思うし、だいいち彼が安定した地位や報酬よりもっと大事なものを手に入れるチャンスは、もうそれほど長くは残されていないはずなのだ。あの落合にできたチャレンジが、イチローに出来ないはずがないと思うんだけどねえ。
イチロー本人も毎年取り沙汰されてますが移籍か残留かで揺れてるみたいで、でもマリナーズで優勝したい、マリナーズでワールドチャンピオンになりたいって気持ちで残留してるみたいです。
そうですか、イチローはやはりマリナーズへの愛着が強いのですか。まあ、長年所属したチームでチャンピオンになりたいという、彼の日本人的な気持ちも分からないではないですね。
私なんかは、この辺でスパッと環境を変えて、そろそろ野球人生の集大成を見せる時期だと思うのですが。もうヒット数云々のニュースには、正直ちょっと飽きました。
ヒットの数はあくまでも結果であって、目的ではないはずですからね。