2009年07月10日
地球温暖化が米にも?
郊外の水田地帯を見渡すと、農家ではどうやら田植えがひととおり終ったらしい。これからの佐賀平野はいよいよ、青々とした稲が揺れる美しい時期を迎えるのだな。この青い田んぼが一面に広がる風景は、日本全国どこでも美しいものだが、だだっ広くて遠くに山影が連なる佐賀平野のそれは、いかにものんびりと田舎らしくて良い。映画『次郎物語』に出て来るあの風景だ。
佐賀平野でつくられる米といえば、有名なのが「ひのひかり」。これは「コシヒカリ」と「黄金晴」の交配から生まれた米で、味が良くて「コシヒカリ」より安いので人気があり、西日本各地で広く栽培されているらしい。佐賀産米ではほかに「夢しずく」というのもあるなあ。これは何といっても唐津市厳木出身の人気画家、中島潔氏の絵が袋に描かれているので、売り場などではけっこう目立つ。筆者は中島氏の童女の絵を見ると、いつも心が癒されるのだ。
ところで、そんな米どころの佐賀県だが、今年から「ひのひかり」に代わって、新品種の「さがびより」を育てる農家があるらしい。聞くところによれば佐賀県では今後、この「さがびより」を主流米にして行く計画だとか。農業にはまるで疎く、腹一杯飯さえ食えればそれで良いじゃないか、というスタンスの筆者にはいったい何で?という話だが、実はそこには深刻な理由があったのだ。

なんと「地球温暖化」という言葉が、佐賀の米づくりに大きく関わっているというから、えっと驚く。もともと宮崎県で産まれたのが「ひのひかり」で、名の通り太陽の輝く南国のイメージそのままに、主に九州を中心として作付けされて来た。つまり、♪生まれも育ちもまるまる九州たい〜、といううどんの「ウエスト」みたいなもの。ホーム・アンド・アウェイでいえば、九州をホームとしていたのだ。
その「ひのひかり」が近年、九州では温暖化の影響を受け、夏の高温障害のため良い米が取れないのだという。これは大変な話だ。代わっていまや「ひのひかり」の作付け地域は、近畿から中部あたりまで北上しているらしい。温暖化の影響の話は、北極の氷が溶けたり海水面が上昇したり、といった遠くのことばかりじゃないんだなあ。
そこで登場したのが、佐賀県が10年がかりで開発したという「さがびより」。10年がかりで開発というと、何だか極秘の新型戦闘機みたいだが、地名の入ったどこか長閑そうな名前は、癒される感じでなかなかステキだ。地球温暖化と戦う、最終兵器「さがびより」なんてね。この品種は暑さに強く、出来た米も粒が大きくて美味いらしい。
メイドイン・佐賀のこの米、今秋くらいからボチボチ市場に出回りそうだが、いずれは佐賀を代表する米として、県外にも売り出されることだろう。美味い米というと東北など北国産のイメージが強いが、はなわの歌や洋七師匠の「がばいばあちゃん」じゃないけれど、ここは佐賀の田舎らしいイメージを逆手に取って、癒し系の味の良い米ということで、おおいに全国にアピールしたら良いんじゃなかろうか。筆者もちょっと食べてみたい気がする。
佐賀平野でつくられる米といえば、有名なのが「ひのひかり」。これは「コシヒカリ」と「黄金晴」の交配から生まれた米で、味が良くて「コシヒカリ」より安いので人気があり、西日本各地で広く栽培されているらしい。佐賀産米ではほかに「夢しずく」というのもあるなあ。これは何といっても唐津市厳木出身の人気画家、中島潔氏の絵が袋に描かれているので、売り場などではけっこう目立つ。筆者は中島氏の童女の絵を見ると、いつも心が癒されるのだ。
ところで、そんな米どころの佐賀県だが、今年から「ひのひかり」に代わって、新品種の「さがびより」を育てる農家があるらしい。聞くところによれば佐賀県では今後、この「さがびより」を主流米にして行く計画だとか。農業にはまるで疎く、腹一杯飯さえ食えればそれで良いじゃないか、というスタンスの筆者にはいったい何で?という話だが、実はそこには深刻な理由があったのだ。

なんと「地球温暖化」という言葉が、佐賀の米づくりに大きく関わっているというから、えっと驚く。もともと宮崎県で産まれたのが「ひのひかり」で、名の通り太陽の輝く南国のイメージそのままに、主に九州を中心として作付けされて来た。つまり、♪生まれも育ちもまるまる九州たい〜、といううどんの「ウエスト」みたいなもの。ホーム・アンド・アウェイでいえば、九州をホームとしていたのだ。
その「ひのひかり」が近年、九州では温暖化の影響を受け、夏の高温障害のため良い米が取れないのだという。これは大変な話だ。代わっていまや「ひのひかり」の作付け地域は、近畿から中部あたりまで北上しているらしい。温暖化の影響の話は、北極の氷が溶けたり海水面が上昇したり、といった遠くのことばかりじゃないんだなあ。
そこで登場したのが、佐賀県が10年がかりで開発したという「さがびより」。10年がかりで開発というと、何だか極秘の新型戦闘機みたいだが、地名の入ったどこか長閑そうな名前は、癒される感じでなかなかステキだ。地球温暖化と戦う、最終兵器「さがびより」なんてね。この品種は暑さに強く、出来た米も粒が大きくて美味いらしい。
メイドイン・佐賀のこの米、今秋くらいからボチボチ市場に出回りそうだが、いずれは佐賀を代表する米として、県外にも売り出されることだろう。美味い米というと東北など北国産のイメージが強いが、はなわの歌や洋七師匠の「がばいばあちゃん」じゃないけれど、ここは佐賀の田舎らしいイメージを逆手に取って、癒し系の味の良い米ということで、おおいに全国にアピールしたら良いんじゃなかろうか。筆者もちょっと食べてみたい気がする。
2009年05月30日
醤油は甘い方がいい?
東京から佐賀に戻って来てはや4年になるが、最近やっと筆者の味覚も九州モードに戻りつつある。いちばん良い例が、キッコーマン醤油の呪縛がようやく解けて来たことだろうか。何というか最近はフジジン醤油(大分県臼杵市)やニビシ醤油(福岡県古賀市)など、地元産の甘い醤油の方が好きになって来たのを感じるのだ。
とにかく東京で暮らしていると、身の回りにある醤油と言えばまず圧倒的にキッコーマン。ぐっと下がってヒゲタかヤマサ。そのくらい向こうでのキッコーマンのシェアは大きいのだが、かつて十代で上京した筆者が初めてこの醤油と遭遇したときに感じたカルチャーショックは、さらにドーンと大きかったね。とにかく驚いたのは、それが恐ろしく塩っぱかったこと。何じゃこりゃ〜!と叫びたい思いだった。
だいたいにおいて九州産の醤油は甘い味が特徴だが、それに比べるとあちらの醤油はみんな塩気がキツい。それもそのはずで、キッコーマンの生まれたのは千葉県野田市。またヒゲタとヤマサは、どちらも千葉県銚子市だ。つまり、塩辛い味が大好きな北関東で生まれた醤油が、むかしから利根川や江戸川を舟で上って江戸に運ばれたため、いまでも東京ではこれらの味が食の世界を席巻しているというわけ。なので、むこうで醤油を使った料理というと、たいてい味が濃くて塩味が利いている。
もっとも九州人も慣れて来ると、このメイドイン北関東の良さがだんだん分かって来る。なにより東京の蕎麦の美味さは、こうした濃口の醤油で作る汁(つゆ)あってのもの。甘い醤油じゃああは行かない。それに香りの良さは抜群で、鰻の蒲焼きやブリの照り焼き、またトウモロコシの付け焼きなど、焼き物にはえも言われぬ香ばしさを発揮する。さらにしっかりと味がつくため、甘露煮などにも向いてるんじゃないのかな。ただし、刺身を浸したり漬物にかけたりするには、ちょっと塩っぱ過ぎる気がするけど。

そんなわけで、長年の東京暮らしですっかりキッコーマン色に染まった筆者だったが、前述の通りこのところようやく塩気が抜けて来たというわけ。やっぱり人間は結局、自分が生まれ育った土地の味覚に帰るということだろうか。ただし一口に九州モードと言っても、南の方に行くとこれがまたかなり違うのだ。
鹿児島や宮崎で刺身を食べたことのある人なら経験済みだろうが、むこうの醤油の甘さにはさすがの佐賀人もビックリする。とにかく、ニビシなどよりさらに甘い醤油が使われているのだから、上には上があるもんだ。むこうで魚の切り身に醤油をたっぷりつけて口に入れた時の、あのええ〜っ?という衝撃は経験した人じゃないと分からないだろうね。
いつかのテレビの旅番組で、タレントの三船美佳(もちろんお父さんは三船敏郎)が鹿児島県指宿市の民家に上がり込み、そこで料理の腕を振るうという場面があった。そのとき彼女は炒めものを作ったのだが、味付けの醤油を誤ってドボドボッ。「ああ〜っ」と心配そうな美佳に、その家の奥さんは「大丈夫」と落ち着いたもの。後でみんなで食べてみると、味付けは大成功だったようだが、たぶんこれは地元産の甘口醤油のお陰なのだろう。「あんなにお醤油を入れたのに…?」と、東京から来た彼女はきっと、食べながら少し不思議だったんじゃなかろうか。
酒にも地酒があるように、醤油にもやはり地醤油というものがある。南北に細長い日本列島だが、では単純に北の方は辛口で南は甘口なのかというと、どうやらそうでもなさそうだ。聞くところによれば沖縄の醤油は甘口らしいが、一方で北陸地方にも甘い味の醤油があるらしい。おそらく地醤油の甘辛は、その地方の古くからの食文化と深い関わりがあるのだろう。その辺りがどうも酒と違って調べるのが難しい。飲み屋などでも、「各地の地醤油あります」という所はまずないものなあ。
そういえば先日、DVDで佐賀を舞台にした野村芳太郎監督の映画『張込み』を観ていたら、刑事たちが張り込む家の近くに「佐星醤油」のホーロー看板を発見した。映画の公開は1958年。その「佐星醤油」は現在も唐人町に健在だが、ネットで調べてみるとなんと佐賀市内にはいま、計9軒もの地醤油の会社がある。意外にも佐賀は醤油の産地なのだ。スーパーなどの棚ではなぜか見掛けないこうした佐賀産の醤油だが、筆者は一度探し出してぜひ味見したいと思っている。
とにかく東京で暮らしていると、身の回りにある醤油と言えばまず圧倒的にキッコーマン。ぐっと下がってヒゲタかヤマサ。そのくらい向こうでのキッコーマンのシェアは大きいのだが、かつて十代で上京した筆者が初めてこの醤油と遭遇したときに感じたカルチャーショックは、さらにドーンと大きかったね。とにかく驚いたのは、それが恐ろしく塩っぱかったこと。何じゃこりゃ〜!と叫びたい思いだった。
だいたいにおいて九州産の醤油は甘い味が特徴だが、それに比べるとあちらの醤油はみんな塩気がキツい。それもそのはずで、キッコーマンの生まれたのは千葉県野田市。またヒゲタとヤマサは、どちらも千葉県銚子市だ。つまり、塩辛い味が大好きな北関東で生まれた醤油が、むかしから利根川や江戸川を舟で上って江戸に運ばれたため、いまでも東京ではこれらの味が食の世界を席巻しているというわけ。なので、むこうで醤油を使った料理というと、たいてい味が濃くて塩味が利いている。
もっとも九州人も慣れて来ると、このメイドイン北関東の良さがだんだん分かって来る。なにより東京の蕎麦の美味さは、こうした濃口の醤油で作る汁(つゆ)あってのもの。甘い醤油じゃああは行かない。それに香りの良さは抜群で、鰻の蒲焼きやブリの照り焼き、またトウモロコシの付け焼きなど、焼き物にはえも言われぬ香ばしさを発揮する。さらにしっかりと味がつくため、甘露煮などにも向いてるんじゃないのかな。ただし、刺身を浸したり漬物にかけたりするには、ちょっと塩っぱ過ぎる気がするけど。

そんなわけで、長年の東京暮らしですっかりキッコーマン色に染まった筆者だったが、前述の通りこのところようやく塩気が抜けて来たというわけ。やっぱり人間は結局、自分が生まれ育った土地の味覚に帰るということだろうか。ただし一口に九州モードと言っても、南の方に行くとこれがまたかなり違うのだ。
鹿児島や宮崎で刺身を食べたことのある人なら経験済みだろうが、むこうの醤油の甘さにはさすがの佐賀人もビックリする。とにかく、ニビシなどよりさらに甘い醤油が使われているのだから、上には上があるもんだ。むこうで魚の切り身に醤油をたっぷりつけて口に入れた時の、あのええ〜っ?という衝撃は経験した人じゃないと分からないだろうね。
いつかのテレビの旅番組で、タレントの三船美佳(もちろんお父さんは三船敏郎)が鹿児島県指宿市の民家に上がり込み、そこで料理の腕を振るうという場面があった。そのとき彼女は炒めものを作ったのだが、味付けの醤油を誤ってドボドボッ。「ああ〜っ」と心配そうな美佳に、その家の奥さんは「大丈夫」と落ち着いたもの。後でみんなで食べてみると、味付けは大成功だったようだが、たぶんこれは地元産の甘口醤油のお陰なのだろう。「あんなにお醤油を入れたのに…?」と、東京から来た彼女はきっと、食べながら少し不思議だったんじゃなかろうか。
酒にも地酒があるように、醤油にもやはり地醤油というものがある。南北に細長い日本列島だが、では単純に北の方は辛口で南は甘口なのかというと、どうやらそうでもなさそうだ。聞くところによれば沖縄の醤油は甘口らしいが、一方で北陸地方にも甘い味の醤油があるらしい。おそらく地醤油の甘辛は、その地方の古くからの食文化と深い関わりがあるのだろう。その辺りがどうも酒と違って調べるのが難しい。飲み屋などでも、「各地の地醤油あります」という所はまずないものなあ。
そういえば先日、DVDで佐賀を舞台にした野村芳太郎監督の映画『張込み』を観ていたら、刑事たちが張り込む家の近くに「佐星醤油」のホーロー看板を発見した。映画の公開は1958年。その「佐星醤油」は現在も唐人町に健在だが、ネットで調べてみるとなんと佐賀市内にはいま、計9軒もの地醤油の会社がある。意外にも佐賀は醤油の産地なのだ。スーパーなどの棚ではなぜか見掛けないこうした佐賀産の醤油だが、筆者は一度探し出してぜひ味見したいと思っている。
2009年04月14日
佐賀んもんの好きな物
総務省統計局のサイトには、家計調査の「都道府県庁所在市別ランキング」というのが載っている(平成18〜20年平均)。これは全国都道府県庁の所在市で、どんな食品や家庭用雑貨が購入されているか、その地域差を調べるためのものらしい。つまり北から南までの主要都市の家庭が、主に何にお金を掛けているかが、一目で分かるようランキングされている。で、見ているとこれが実に面白い。地域による嗜好の違いや、生産地との関係などがはっきりと分かり、思わず笑ってしまうのだ。
例えば「カステラ」購入の1位が長崎市というのは、おおやっぱりなあという感じだし、「ぶどう」の購入1位が甲府市で「緑茶」は静岡市、また「しゅうまい」が横浜市というのも、なるほどと頷ける話だ。実際にこうしたランキングにして数字で表したものをみると、それが単なるイメージなどではなく、現実にそこの市民たちの消費傾向なのだということがよく分かる。「牡蠣」のトップはやっぱり広島市だし、「しじみ」はやっぱり松江市なのだ。
では佐賀市民はというと、これがまたけっこう興味深い。まず特筆すべきは「ようかん」の購入費が全国一だということ。これはやはり何といっても、隣接する小城の名産「小城羊羹」の存在が大きいはずだ。小城のような羊羹屋だらけの町は、日本中探しても他に無いだろうし、だいいちあのトロリと舌に溶ける絶妙な美味さは、よその羊羹にはない特長だ。筆者も小城羊羹は好物だが、佐賀市民もきっとこれが大好きなのだろう。そういえば佐賀市出身の女優・中越典子ちゃんも、いつかテレビでそう言ってたものなあ。つまり日本一羊羹好きな佐賀市民の陰に、“羊羹の町”小城のアシストありということか。
もっとも、他に菓子類では「キャンデー」が6位に入り、「スナック菓子」「アイスクリーム・シャーベット」が7位、「まんじゅう」「ゼリー」が10位というのが目につく程度。“菓子王国”を自認する佐賀だが、このランキング表で見る限り、羊羹以外はさほどお菓子好きという結果でもないなあ。といって酒類の購入費が他と比べて特に多いわけでもないから、佐賀市民は偏った甘党でも辛党でもないということになる。

意外なのは、野菜や果物にあまりお金を使ってないこと。「生鮮野菜」は全国で43位だし、品目別で上位のものといえば「もやし」5位に「ごぼう」3位、「れんこん」7位くらいで、あとの野菜は軒並み下の方。果物類に至っては品目別でベストテン入りは皆無、果物全体の購入額で見ても全国の下から2番目だから、いったいなんで?という感じなのだ。これはたぶん、農業県佐賀では野菜や果物の値段がとても安いため(あるいは親戚や知り合いからタダで貰えたりするため)、それほど購入費が掛からないということじゃなかろうか。
魚介類ではどうかといえば、全体では下位の方だが、品目では「あじ」が4位で「たい」が3位。しかも「たい」は数量では1位となっており、あくまで統計上の平均だが、佐賀市民は全国でいちばん多く鯛を食べる人たちということになる。また肉類となると、購入する額よりも数量の多さが目につく。「生鮮肉」全体は全国で3位だし、「鶏肉」が5位で「合いびき肉」は2位なのだ。つまり佐賀市民は牛肉や豚肉よりも、新鮮で割安な鶏肉や合いびき肉を多く食べるということなのだな。
面白いのは調理した食品の数値だ。「調理パン」の購入額はなんと全国1位で、「冷凍調理食品」も1位。「そうざい材料セット」と「しゅうまい」はともに2位で、「ハンバーグ」が7位につけている。これは佐賀の主婦が手抜きをしているというよりも、調理済みの食品をうまく活用して時間のムダを省く、働き者の佐賀おなご的合理精神と好意的に捉えたい。「即席めん」の購入が4位というのも、たぶん同じベクトルを指しているのだろうしね…。
しかしこのデータ、やはり面白い。ただの統計上の数字による比較のはずなのに、そこからは市民の嗜好や地域産業のみならず、生活習慣や果ては県民性といったものまでが自然に垣間見える。相手が客観的な数値だけに、妙に説得力があるのだ。で、最後にいちばん“へえ”と思ったのが「カレールー」。「ケチャップ」の5位に、「マヨネーズ・ドレッシング」の7位はいいとして、この「カレールー」の購入数量で佐賀市が全国1位というのは、いったいどういうことなのだろうか? ちょっと不思議な気がするんだなあ。
例えば「カステラ」購入の1位が長崎市というのは、おおやっぱりなあという感じだし、「ぶどう」の購入1位が甲府市で「緑茶」は静岡市、また「しゅうまい」が横浜市というのも、なるほどと頷ける話だ。実際にこうしたランキングにして数字で表したものをみると、それが単なるイメージなどではなく、現実にそこの市民たちの消費傾向なのだということがよく分かる。「牡蠣」のトップはやっぱり広島市だし、「しじみ」はやっぱり松江市なのだ。
では佐賀市民はというと、これがまたけっこう興味深い。まず特筆すべきは「ようかん」の購入費が全国一だということ。これはやはり何といっても、隣接する小城の名産「小城羊羹」の存在が大きいはずだ。小城のような羊羹屋だらけの町は、日本中探しても他に無いだろうし、だいいちあのトロリと舌に溶ける絶妙な美味さは、よその羊羹にはない特長だ。筆者も小城羊羹は好物だが、佐賀市民もきっとこれが大好きなのだろう。そういえば佐賀市出身の女優・中越典子ちゃんも、いつかテレビでそう言ってたものなあ。つまり日本一羊羹好きな佐賀市民の陰に、“羊羹の町”小城のアシストありということか。
もっとも、他に菓子類では「キャンデー」が6位に入り、「スナック菓子」「アイスクリーム・シャーベット」が7位、「まんじゅう」「ゼリー」が10位というのが目につく程度。“菓子王国”を自認する佐賀だが、このランキング表で見る限り、羊羹以外はさほどお菓子好きという結果でもないなあ。といって酒類の購入費が他と比べて特に多いわけでもないから、佐賀市民は偏った甘党でも辛党でもないということになる。

意外なのは、野菜や果物にあまりお金を使ってないこと。「生鮮野菜」は全国で43位だし、品目別で上位のものといえば「もやし」5位に「ごぼう」3位、「れんこん」7位くらいで、あとの野菜は軒並み下の方。果物類に至っては品目別でベストテン入りは皆無、果物全体の購入額で見ても全国の下から2番目だから、いったいなんで?という感じなのだ。これはたぶん、農業県佐賀では野菜や果物の値段がとても安いため(あるいは親戚や知り合いからタダで貰えたりするため)、それほど購入費が掛からないということじゃなかろうか。
魚介類ではどうかといえば、全体では下位の方だが、品目では「あじ」が4位で「たい」が3位。しかも「たい」は数量では1位となっており、あくまで統計上の平均だが、佐賀市民は全国でいちばん多く鯛を食べる人たちということになる。また肉類となると、購入する額よりも数量の多さが目につく。「生鮮肉」全体は全国で3位だし、「鶏肉」が5位で「合いびき肉」は2位なのだ。つまり佐賀市民は牛肉や豚肉よりも、新鮮で割安な鶏肉や合いびき肉を多く食べるということなのだな。
面白いのは調理した食品の数値だ。「調理パン」の購入額はなんと全国1位で、「冷凍調理食品」も1位。「そうざい材料セット」と「しゅうまい」はともに2位で、「ハンバーグ」が7位につけている。これは佐賀の主婦が手抜きをしているというよりも、調理済みの食品をうまく活用して時間のムダを省く、働き者の佐賀おなご的合理精神と好意的に捉えたい。「即席めん」の購入が4位というのも、たぶん同じベクトルを指しているのだろうしね…。
しかしこのデータ、やはり面白い。ただの統計上の数字による比較のはずなのに、そこからは市民の嗜好や地域産業のみならず、生活習慣や果ては県民性といったものまでが自然に垣間見える。相手が客観的な数値だけに、妙に説得力があるのだ。で、最後にいちばん“へえ”と思ったのが「カレールー」。「ケチャップ」の5位に、「マヨネーズ・ドレッシング」の7位はいいとして、この「カレールー」の購入数量で佐賀市が全国1位というのは、いったいどういうことなのだろうか? ちょっと不思議な気がするんだなあ。
2008年08月25日
蕎麦がうまい!

暑い季節には冷えた麺類がうまい。ソーメンに冷や麦、冷たいうどんなどが食欲をそそるが、中でも筆者の好みは蕎麦。盛りでもざるでもいいが、山盛りの蕎麦を箸でつまみ上げザブリとつゆに浸すとき、このうえない幸せを感じる。
うどん文化圏の九州ではふつう蕎麦屋はあまり見掛けず、蕎麦はうどん屋のメニューの一つになっている。が反対に、東京ではどこに行っても蕎麦屋ばかりで、うどんは蕎麦の脇役的メニューにすぎない。なので筆者が蕎麦の味に初めて目覚めたのは、むかしむかし小城から学業のため移り住んだ東京でのことだった。
とにかく東京の蕎麦は美味い。老舗の名店はもとより、町なかのごく庶民的な店に入っても、どこもふつうに美味い蕎麦を出す。よっぽどひどい店でもない限り、つまり当たり外れがないのだ。この安心感は大きい。だから、外での昼食などで手近に良さそうな店がないときは、たいてい蕎麦屋に入ればまず失敗はない。
東京の蕎麦がうまい理由はいろいろあるだろうが、何より蕎麦粉の産地である信州・長野県が近いのが大きいだろう。じっさい都内を歩けば、「更科(さらしな=信州の蕎麦粉の産地)そば」の暖簾を上げた店がよく目につく。もっとも、それをいえば九州だって名だたる蕎麦粉の産地は多いものなあ。両者に味の差があるかといえば、筆者にはそうは思えない。
これは個人的な意見だが、東京の蕎麦が美味いのはそのつけ汁に秘密があるのだと思う。よく言われるのが関東と関西での水質の違いで、関東の水はミネラル分の多い硬水のため、コンブだしが出にくい。そのハンディを補うため、鰹などの魚系だしをたっぷり使い、味の濃い千葉県産の醤油とみりんで煮込んだ、真っ黒な関東風つけ汁が生まれたというわけ。この甘辛くて鰹風味の利いた濃厚つけ汁が、もう絶妙のハーモニーというか蕎麦の香りと実によく合うのだ。そう、蕎麦には独特の香りがあるんだよね。
逆にコンブだしの利いた九州や関西の上品なつけ汁では、この蕎麦の香りが勝ちすぎてあまり美味くは感じない。九州で生まれ育った人間がたいてい蕎麦よりうどん・ソーメンが好きなわけは、このほんのり甘く半透明なだし汁とうどん・ソーメンとの圧倒的な相性の良さを、よく知っているからだろう。そう、色が真っ白で香りも淡白なうどんやソーメンは、薄色甘口な汁につけてこそ、その美しさや繊細な美味さを十分に発揮するのだ。
だから、東京の蕎麦屋でうどんなどを注文したら、関西以西の人はきっと後悔することになる。あの真っ黒で濃厚甘辛なつけ汁とうどんとでは、まったく相性が合わないのだ。それはまるで色黒な漁師のアニキと、色白で上品なお姫様のカップルのようなもの。さらに間違ってかけうどんなどの汁物を頼んだ日には、もうビックリ仰天の目に遭うことだろう。なにしろ白いはずのうどんが、真っ黒い汁の中で茶色く変身しているんだものなあ。やはり何ごとも相性が大事なのだ。
よって、筆者の結論はこうだ。蕎麦を食べるなら関東風鰹だしの濃厚甘辛なつけ汁で、一気にズルッと飲み込むにかぎる。うどんやソーメンの場合は、薄色甘口な関西風の汁でゆっくり味わいながらすするのが良い。まあこれは、あくまでも個人的嗜好なのだが…。
ちなみに筆者は以前、佐賀市の三瀬村にある「そば街道」に行ったことがある。あのときは国道263号をそれて、少し枝道の奥にある一軒の蕎麦屋に入ったが、そこで食べたざる蕎麦はなかなか美味かったなあ。佐賀にも蕎麦の名所ができたのは嬉しいこと。暑い季節のうちに、またもう一度行ってみたいものだ。
2007年10月29日
棚から御福餅?

小城の銘菓といえば「小城羊羹」だが、伊勢の銘菓はやはり「赤福」だろう。
以前、三重県伊勢市のおかげ横丁に行ったとき、土産に買って帰った「赤福」は本当にうまかった。上品な甘さのこし餡に包まれた柔らかな餅は、口の中でふわりと弾力があり、飲み込むと喉を優しく転げながら落ちて行った。ひと箱があっという間になくなったものだ。好物だという友人にも持って行ったが、ひどく喜ばれたのを覚えている。
その「赤福」がピンチだ。製造年月日の偽装がバレて、無期限の営業禁止命令を受けてしまったのだ。売れ残りを回収して製造日を改竄した後、再販売するという悪質さだから当然と言えば当然だが、あの「赤福」のうまさを知る者としてはちょっと残念なのだなあ。
そんなある日、近所のスーパーのワゴンに積まれた「赤福」を発見した。おお、抜け道があったのか! 酒も飲むが甘いものも好物の筆者は、さっそくひと箱購入して持ち帰った。で、箱を開けようとして包装紙を良く見ると、なんとそこには「赤福」ではなく「御福餅」と書いてあるではないか。狐につままれたような、とはまさにこのこと。包装紙のデザインやロゴはどう見ても「赤福」なのに、商品名は「御福餅」なんてそんなバカな。しかたなく箱を開けてみると、中に並んだこし餡の姿も形も本物そっくり。う〜ん、思わず腕組みをしてしまったね。
調べてみるとこんなサイトが見つかった。
http://homepage1.nifty.com/sasapon/spe_ohuku.html
そうだったのか、「御福餅」は「赤福」のコピー商品だったのか。「赤福」が宝永4年の創業なのに対して「御福餅」は昭和7年と、両者のキャリアにはずいぶん差がある。それにしてもここまで似ていたら、もう感心するしかない。おまけに食べてみれば「御福餅」、ちゃんと美味いじゃないか! パクリも徹底すれば本物になるということか。
その「御福餅」がいま売れているという。「赤福」ファンがどっとそっちに流れたのだろうが、「御福餅」にしてみれば“棚からぼたもち”という奴なのだろう。“本物”のスターが覚醒剤で逮捕されて、“ソックリさん”の物真似タレントにスポットが当たるようなものだが、でもこれでいいのかなあ。ちょっと考えさせられる話だ。