2019年03月31日
『いだてん』を面白くするには?

今年のNHKの大河ドラマ『いだてん』の視聴率が芳しくない。初回こそ15.5%とそこそこのスタートだったものの、2回目以降は徐々にダッシュ力が落ち、6回目で早くも9.9%を記録。それ以後は、ずっとひと桁台の安定した低空飛行を続けている。このまま行けば、あの悪名高かった松ケンの『平清盛』さえビックリの、大河史上最低の視聴率を叩き出しそうな勢いなのだ。
今回は大河では珍しい近現代ものだし、主人公が金栗四三という一般的には無名の人物だし、と最初から視聴率を危惧する声は多かった。まあそれでも金栗氏は、日本のマラソン史上でそれなりの有名人のはず。物語はこれから主人公がバトンタッチし、一般的にはさらに無名の政治家・田畑政治に代わるというが、そうなると視聴率はもっとヒドいことになりそうだ。田畑氏がいくら1964年の東京オリンピック招致に携わった人物とはいえ、大河ドラマの視聴者がどこまで付いて来るのか、NHKも薄氷を踏む思いではなかろうか。
筆者的にはこの『いだてん』、今のところわりと楽しく観ている。主人公は中村勘九郎扮する金栗四三だが、ストーリーテラーに同時代の落語家・古今亭志ん生を持って来たアイデアが面白い。金栗のマラソン人生と志ん生の落語家人生が、時代を並走する構成となっており、コミカルな展開の速さで笑わせてくれる。ただし、ドラマには若き日の志ん生(森山未來)と、後年の志ん生(ビートたけし)の二人がそれぞれ登場するため、お年寄りの視聴者などにはちと分かり難いのかも知れないが…。
ドラマの脚本は宮藤官九郎で、筆者はこの人のユーモアのセンスを気に入っている。深刻ぶったわりには、ちっとも面白くなかった過去の大河作品に比べれば、歴史上の人物や事件にツッコミを入れながら、笑いに変えるクドカンの手法は小気味良い。NHKの大河ドラマも、初回の『花の生涯』からすでに56年。ネタ切れやマンネリという声も、どこかから聞こえて来る。その中で『真田丸』の三谷幸喜と同様に、「コメディ大河」という新路線に挑んだ、クドカンのチャレンジ精神は大いに評価したい。
それにしても『いだてん』の視聴率を、向上させる妙案はあるのだろうか? これはなかなか難しそうだが、もしも筆者がプロデューサーの立場なら、この『いだてん』というタイトルをもっと活かしたドラマを考える。それは、知られざる日本陸上界のランナーの物語を、リレー形式でドラマ化するという構成だ。まあこれ、素人のいち視聴者ゆえのアイデアだが、筆者だってNHKにはしぶしぶ毎月の料金を払っている。いわばスポンサーだ。ここは一つ好き勝手なことを言わせてくれ。
筆者版『いだてん』の最初の主人公は、1912年ストックホルム・オリンピックの金栗四三と三島弥彦、これはこれで決まりだろう。だがその後、彼らの後を追ってオリンピックの夢に挑戦した、数々の日本人ランナーがいる。メダルに手が届かなかった選手もいれば、ついに手の届いた選手もいる。そこには日本陸上界が連綿と繋いで来た悲願があり、そこから生まれた悲喜こもごものドラマがあったはず。その中から有名無名の何人かのランナーをピックアップし、リレー形式でドラマ化したら面白いと思うんだけどね。
例えば、1928年のアムステルダム・オリンピックでは、女子800メートルに出場した人見絹枝が銀メダルを取っているが、彼女は男女を通じてランナーとしては初のメダリストになった。これは当時の日本では、一大センセーションだったはずだ。また、1932年のロサンゼルス・オリンピックに出場して100m決勝で6位に入賞、 1935年には同競技で10秒3の世界タイ記録を出し、「暁の超特急」と呼ばれた吉岡隆徳なども特筆すべき選手だろう。この人、スタートダッシュが得意だったらしいが、短足の日本人でも戦えることを証明したところがエライ。
さらに、1936年のベルリンオリンピックを記録した、レニ・リーフェンシュタール監督の映画『民族の祭典』には、男子1万メートルでフィンランドの大男3選手を相手に死闘を演じた、小さな村社講平の姿が映し出されている。筆者も人のことは言えないが、悲しいかな北欧人と日本人では脚の長さがまるで違う。村社は真っ向勝負で彼らに対抗し、最後は力尽きてメダルを逸してしまうが、判官贔屓の大観衆が「ム・ラ・コ・ソ!」と応援するシーンは感動ものだ。
そして、金栗が参加したストックホルム大会から52年後、1964年に開催された東京オリンピックで、ついに円谷幸吉がマラソンで銅メダルを獲得する。彼はその後、悲劇的な最期を遂げることになるが、このとき扉を開いた意義は大きかった。続く1968年のメキシコ大会では君原健二が銀メダル、1992年のバルセロナ大会では男子の森下広一、女子の有森裕子がともに銀メダルと、マラソン勢は大健闘。有森は次の1996年のアトランタ大会でも銅メダルだから本当にスゴい。彼女の活躍は2000年シドニー大会の高橋尚子、2004年アテネ大会の野口みずきと、女子マラソンの金メダル連覇へと繋がって行く。
こうしてみると、ローマは一日にして成らず。幾多のランナーたちの汗と涙があって、2020年の東京オリンピックにバトンが手渡されるわけだな。思えば体格や身体能力で黒人や白人に劣る日本人が、駆けっこで彼らに挑戦するのだから、苦戦は必至というものだ。先人たちはよく頑張った。だが、そこにこそ『いだてん』のタイトルに相応しい、数多くの感動物語があったはずなのだ。筆者的にはその軌跡を描いたドラマの方が、絶対に面白いと思うのだがどうだろう。NHKさん、何とかなりませんか…?
この記事へのコメント
大河ドラマ「いだてん」は最初の3回で視聴を止めました。以降、見ていません。金栗翁のマラソン草創期の逸話と生涯と生き様を見たかったのに、脚本がつまらなくて。幻に終わった昭和15年の東京招致までを描けば価値があったのに、昭和39年まで入れるから、筋が滅茶苦茶になったと思います。来年の明智光秀には期待しています。
Posted by 桜田靖 at 2019年12月09日 11:20