2015年06月14日
日本の第二国歌は?

日曜の夜が待ち遠しくなるテレビ番組と言えば、かつてはNHKの大河ドラマだった。だがその大河も近年は駄作が続き、今年のドラマ『花燃ゆ』は視聴率がエラいことになっている。このまま『平清盛』のワースト記録を更新かともっぱらの噂だが、なにしろまるで面白くないのでどうなることやら。筆者は3月頃にこのドラマにサヨナラし、以後は全くノータッチ。その代わり毎回楽しみに観ているのが、TBSが4月から午後9時に放送している『天皇の料理番』だ。つまらない大河より、こっちの方がはるかに面白いから困るんだなあ。
これは天皇陛下の“料理番”を務めたシェフ、秋山徳蔵(ドラマでは篤蔵)氏をモデルにした若者の成長物語で、佐藤健扮する篤蔵がパリで修行を積み、帰国して宮中で活躍するまでを描くもの。脚本も良いし役者たちも熱演している好ドラマだが、特に筆者が感心するのは細部におけるリアリティだ。これが作品の質を格段に高めている。佐藤健の庖丁さばきは本当に見事だし、結核を患った兄・周太郎を演じる鈴木亮平の痩せっぷりもスゴい。妻・俊子との別離の場面で、彼女の肩に落ちたひとひらの雪があわく溶ける表現などは、まるで映画を観ているようだったね。
ただし、そんな中で筆者が「ん?」と思う所がひとつだけあった。それは「第6話」の終盤、決意した篤蔵が庖丁一本背中に巻いて、料理修行のためパリにやって来る場面だ。パリの街なかを歩く篤蔵の熱き心を表すように流れるBGM、それがなんとエルガー作曲の行進曲『威風堂々』第1番ではないか。おいおい、それはないんじゃないの? たしかに勇壮で素晴らしい曲だが、何といってもこれはイギリスの「第二国歌」とも言われるほど、かの国民から愛される名作。まるで日本を舞台にしたドラマで、中国の音楽を流すようなミスマッチには、ちょっと違和感を覚えたなあ。
パリが舞台のドラマなら当然、フランスの曲を流すのがスジというものだろう。国歌の「ラ・マルセイエーズ」はちょっと大袈裟過ぎるとしても、この場面に相応しい曲ならやはり同国の第二国歌と言われる、『自由の歌』こそ選ばれるべきじゃなかろうか。荘厳なスローテンポの軍歌だが、篤蔵の高揚した心情を表すにはピッタリの心躍る旋律なのだ。当然、パリの街並とも相性は良いはず。ただし、パルチザンに戦いを呼び掛ける血生臭い歌詞なので、もちろん演奏曲としてがオススメだが。
しかし、イギリスの『威風堂々』第1番にしろ、このフランスの『自由の歌』にしろ、世界各国には第二国歌と呼ばれる愛唱歌があるようだ。例えばアメリカの『美しきアメリカ』は同国の様々な歌手に歌われているし、オーストラリアの『ワルツィング・マチルダ』は日本でも知られている。フィンランドの第二国歌と呼ばれる『フィンランディア賛歌』の原曲は、筆者も大好きな作曲家シベリウスの交響詩『フィンランディア』だ。これ、ロシアの圧政下で歌う事を禁じられたが、密かに国民に愛唱されたという美しいメロディが泣かせる。
では、日本の第二国歌とは何だろう? ずいぶん意見が割れそうなテーマだが、その前にまず現在の国歌『君が代』を尊重したい。むろん筆者は優雅で平和的なこの国歌を気に入っている。なにしろ歌詞は古今和歌集の読み人知らずの和歌、曲は宮内省雅楽課の林広守らの手になる純和風だ。この純和風ってのがいい。ただし編曲はドイツ人のフランツ・エッケルトで、雅楽の音階で作られた曲を西洋音楽の技法で神業的にまとめたものが、現在われわれが聴く『君が代』なのだ。ユニゾンで始まり雅な旋律とハーモニーでグッと高揚した後、またユニゾンで静かに終る美しい曲だが、サッカーの国際試合などでは軍歌風の他国の国歌にちと押され気味になる。あまりに優美過ぎるためだ。
なので、第二国歌は勇ましいものが良いという人も多いだろう。戦前から戦中にその地位にあった信時潔作曲の『海ゆかば』は、現在でも年配者を中心に人気の高い曲だ。歌詞は万葉集の中の大伴家持の歌からとられたものだが、メロディの勇壮さといい、高貴かつ荘厳なオーケストレーションといい、感動的な名曲には違いない。なにしろ信時先生は筆者の母校、小城中学と小城高校の校歌の作曲者でもあるもんな。ただしこれ、あまりに悲壮感が強過ぎて、愛唱歌としては正直ちょっと重い気もする。誰もが自然に口ずさめる歌こそ、現代の第二国歌に相応しいと思うのだが。
ネットでためしにググってみたら、そこにはいろんな人がいろんな曲を挙げていた。それぞれ好き勝手という感じだが、しかしこうしたテーマは老いも若きも自由に発言すれば良い。『宇宙戦艦ヤマト』を挙げていたのは少し古いアニメ世代だろうか。阿久悠作詞、宮川泰作曲で、ささきいさおが朗々と歌い上げるこの曲は確かにカッコいい。軍歌ファンのハートを掴む曲調で、地球を救うためにイスカンダルへ旅立つヤマトの、雄々しい決意がビンビン伝わって来るもんな。筆者的には嫌いではないが、まあアニソンはどうもという人や、女性、平和主義者には反対意見もありそうだ。
勇ましさという点では、夏の高校野球の入場行進曲『栄冠は君に輝く』を推す声も多かった。何といっても作曲者は、「日本のスーザ」とも呼ばれたマーチ王・古関裕而。歌謡曲から交響曲まで数々の名曲を生み出した大作曲家だが、もちろんお得意は心躍るメロディの行進曲だ。東京五輪の『オリンピックマーチ』は筆者の記憶に深く刻まれている。この『栄冠は─』も氏の代表作のひとつで、毎年夏になると日本全国が熱い高揚感に包まれるが、それもきっとこの曲の素晴らしさのせいなのだろう。その意味では第二国歌の資格十分だが、ただし野球にあまり興味のない人にはどうなのかな?
勇ましさに拘らない愛唱歌ならば、他にも『上を向いて歩こう』や『幸せなら手をたたこう』など、故坂本九の歌も挙がっていたね。さすがは九ちゃんだ。これらは歌い易く日本人なら誰でも知っている曲。第二国歌にしてはポップス系でちょっとノリが軽い気もするが、サークルなどで老若男女が仲良く口ずさめるという強みがある。また『ふるさと』や『さくらさくら』といった正統派の唱歌も根強い人気があり、こちらは小学校の教室でしっかり歌ったという年配者の支持を集めそうだ。もっとも若年層はたぶん、唱歌にはあまり乗って来ないかも知れないけどね。
こうしてみると第二国歌も、世代や男女の違いにより意見はバラバラだ。あちら立てればこちらが立たずで、なかなか決勝ゴールは生まれそうもない。ただ筆者に言わせれば、第二国歌にはいくつか必要な条件がある。まず日本人の作った曲であること。そして国民みんなに愛唱され、それによって日本の良さや日本人の誇りを確認できる歌であること。そうでなくては国歌とは言えないものな。なので、そこには歌い易くかつ堂々としていて、ちょっぴり応援歌っぽい要素も必要なんじゃなかろうか。いやいやなかなか難しい。かといって、官製ソングをわざわざ作るような野暮は避けたいし…。
まあそんな筆者が最後に独断と無責任で、既存の中からひとつオススメ曲を挙げたい。それはかつてフォークグループ「赤い鳥」が歌った『翼をください』だ。サッカーファンならお馴染みだが、この曲はW杯フランス大会の予選から応援歌として歌われ、苦戦した日本代表をスタンドから大いに励ました。サポーターの大合唱は今でも筆者の耳に残っている。しかもこれ、むかしから学校の音楽教科書にも載っており、フォーク世代から現代の若者まで幅広く知られているのがポイント。山上路夫の詞も村井邦彦の曲も、ともに希望に満ちたスケールの大きさを感じさせ、第二国歌として歌い継がれるべき名曲だと思うのだが、どうだろうか?
この記事へのコメント
西南戦争で官軍が難儀した田原坂の戦い、これを勝利へと救ったのが「警視庁抜刀隊」でした。薩摩を憎む会津の隊員も少なくなかったと聞きます。「抜刀隊の歌」のメロディは自衛隊のパレードに使われますが、本家は警視庁で、警視庁のパレードでも「抜刀隊」を使います。又「警視庁の歌」も使われます。♪鳴り渡る自由の鐘に 盛り上がる平和の力 明るくも正しく強くこぞり立つ 我ら四万 オウ オウ 警視庁 が一番の歌詞です。作詞した山口栄さんは元わたしの上司でした。朝日新聞記者を辞めて警察官になった人でした。SPを率いる警護課長の時に、宴会の帰りに油断して横断禁止の環七を渡っていた交通事故死でした。油絵も上手な方でした。
Posted by 桜田靖 at 2019年09月26日 10:57