2008年01月16日

正月のガッツ伝説

運動不足を補うため、休日などにときどき散歩を兼ねて30分ほど歩き、国道沿いのブックオフに行く。安くて掘り出し物の本を探す楽しみと、内蔵脂肪を少しは減らせた(?)という満足感が、同時に味わえるのがいい。そんなわけでこの正月に読んだ本も、ブックオフの書棚で見付けたごく安価なものだ。

タイトルは『神様ありがとう 俺の人生』。はなわの歌でも有名な、あのガッツ石松の自伝だ。まあ、特にこの人のファンでもなかったのだが、なんとなくハードカバーの背表紙の文字が大きかったのと、安価な割に本がほとんど新品状態だったから、つい購入してしまったわけ。といっても筆者は昔からボクシングのファンなので、ボクサー・ガッツ石松に多少の興味はあったのだが。

正月のガッツ伝説

この本には栃木県の貧しい農家に生まれた著者の、少年時代から上京してのボクサー時代、そして俳優に転身してから現在に至るまでの足跡や心境が、数々のエピソードとともに素直な筆致で語られている。むろん、ライターの手によるものなのだろうが、ガッツ氏の逞しくかつ純粋な生き方が正直に吐露されており、まるで肉声を聞いているような気持ちにもさせられる。

それにしても、この人の少年時代の生き方はすさまじい。家が貧乏なため、腹いっぱい飯を食うのがいちばんの夢だったという生活を送り、小学生のときから家計を助けるために新聞配達やよその農家の手伝いをしたり。一方ではケンカがめっぽう強く、自分を苛める奴は絶対に許さぬうえ、上級生をも従わせるガキ大将ぶり。孝行息子と悪童の両面を持った子供だったらしいが、これがガッツ少年に不屈の負けじ魂を植え付けていったんだなあ。

筆者が思い出すのはガッツ石松を名乗る前、鈴木石松というリングネームだった頃のボクサー時代。当時(昭和40年代)の日本ライト級にはこの鈴木石松のライバルとして、門田新一という素晴らしいボクサーがいた。強いけど打たれもろい弱点のあった石松よりは、この門田新一こそがいずれ世界チャンピオンになるものと筆者は踏んでいた。ルックスだって月とスッポンだったし。

だが結局は、ガッツと改名して執念で世界のベルトを掴んだ石松に対し、門田は一階級上のジュニア・ウェルター級の世界挑戦に敗れ、不運のままあっさりとリングを去っている。門田が本来のライト級で挑戦していればとも思ったものだが、このあたりにガッツ石松の強運と不屈の精神力を、筆者は感じるんだよなあ。

なにより評価できるのは、彼が闘った当時の世界ライト級というのが、きわめて層の厚い階級だったこと。対戦相手をみても、イスマエル・ラグナ、ロベルト・デュラン、ロドルフォ・ゴンザレス、ケン・ブキャナンなど、錚々たる猛者が並んでいる。敗れた試合も多かったとはいえ、この中で日本人ボクサーとして初めて世界チャンピオンになり、連続5回の防衛に成功した実績は輝かしい。さすが、ガッツだぜ!

引退し俳優に転身してからは雌伏の時代もあったものの、徐々に頭角をあらわし、今では存在感のある脇役として不動の地位を得ている。そういえば彼、アメリカ映画の『太陽の帝国』『ブラックレイン』にも出ていたな。そのあたりの役者としての苦労話や、衆院選での落選体験などもこの本では正直に書かれており、読み応えがある。

意外だったのは、この石松氏に漢詩が好きという一面もあるなど、テレビなどで喧伝される“ガッツ伝説”とは別の、ピュアで真面目で勉強家の顔があったこと。そこにははなわの歌とはちょっと違う、もう一つの石松像が見えてくる。人は見かけによらぬもの。期待してなかったけど、オッケー牧場の一冊でした。



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Posted by 桜乱坊  at 16:08 │Comments(0)本・映画・音楽など

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