2008年12月28日
1月に宮地亨展

先日、小城市立中林梧竹記念館から、来年1月に開催予定の展示会のチラシが送られて来た。タイトルは『精神のマチュエール・宮地亨展(1月17日〜2月8日)』とあり、チラシの半分ほどを占める絵には、灰茶色の地面で餌をついばむ鳩の群が描かれている。思わず、へえ、という感じでその絵を眺めてしまった。
宮地亨といえば今からウン十年前、筆者が高校生だったときの美術の先生だ。当時は授業でデッサンや彫塑などを習ったが、いかにも芸術家らしく気難しい感じの人だったのをよく覚えている。おまけに辛辣で生徒の作品評などは厳しいものが多かったが、たまに人を笑わせるユーモア精神もあったなあ。むろん才能のない筆者などは、褒められたことはなかったが。
高校の美術室の隣に狭いアトリエがあり、宮地先生はそこで創作活動をしていたようだ。生徒には立入り禁止の部屋だったが、たまに扉の隙間から中を覗くと、雑然とした室内に描きかけの大きな油絵が置いてあったりした。それらの絵はたいていダークグレーの色をしており、ずいぶん暗い絵ばかり描く人だと噂し合ったものだ。
当時から創元会や日展で活躍しておられたが、昭和50年代に入ってからはフランスなどヨーロッパに進出し、そこでいくつかの大きな賞を獲られたのだとか。海外でのご活躍は、筆者が高校を卒業し上京して後のことなので、恥ずかしながらまったく知らなかった。あの偏屈な美術の先生がそんな大家になるなんて、誰も想像出来ないものなあ。
そんなわけで、宮地先生の作品がまとまって観られる1月を、今から楽しみにしている。ひょっとすると、あの日見たダークグレーの暗い絵と再会出来るかも知れないし…。もっとも、チラシに刷られたこの鳩の群の絵をよく見ると、鳥の脚や首などには微細だがけっこう鮮やかな色が使ってある。それをいま発見した。
2008年12月16日
幕末佐賀のドラマ
NHKの大河ドラマ『篤姫』がついに終った。ビデオリサーチの調べでは、最終回の視聴率が28.7%(関東地区)で年間平均視聴率も24.5%だというから、近年の大河ドラマの中では一番のヒットということになる。筆者もこの番組を毎回観ていたが、時代の荒波に翻弄されながらも明るさを失わない主人公と、「家族の絆」に焦点を当てた、なかなか好いドラマだったと思う。けっこう泣かされたもの。
ブームに沸いた篤姫の故郷・鹿児島はこの一年で観光客が急増したといい、いまや彼女は西郷・大久保に続く薩摩のニューヒロインらしい。同じ「薩長土肥」に名を連ねる佐賀としては羨ましいが、しかし、考えてみればこちらにだって幕末・明治に活躍した偉人はたくさんいる。佐賀神社には「七賢人」の碑だってある。ここらでそろそろNHKも、こうした佐賀の偉人を主人公にした大河ドラマを、作ってくれても良いんじゃないの──?

そんな思いで最近読んだ本が、毛利敏彦著『幕末維新と佐賀藩(中公新書)』だ。毛利先生の著作は以前にも『江藤新平』や『明治六年政変』などを読んでいたが、この本は今年の夏に出版されたばかりで、新しい研究成果なども多く盛り込まれている。で、一気に読んでしまったが、これが実に面白かった。なによりこの人の書くものには、いつも佐賀への“愛”が感じられて嬉しい(「毛利」なのに…)。
本著には、幕末の佐賀藩主・鍋島閑叟の存在の大きさと、彼の“秘蔵っ子”である江藤新平が新政府で果たした役割が、詳細に描かれている。閑叟さんは写真で見るとヌーボーとした印象だが、実は薩摩の島津斉彬と並ぶ開明的名君だったんだな。幕末佐賀藩を日本随一の科学先進国に改革し、多くの有能な人材を育て上げた指導力は、やはりたいしたもの。その期待を最も大きく集めたのが、江藤という男だったわけだ。

この本はそうした閑叟と江藤の緊密な関係をまさぐりながら、結果としてそれが、明治新政府における江藤の大きな業績に繋がったと述べている。そうなんだよなあ、江藤新平ほど短期間に目覚ましい仕事を成し遂げ、あっという間に消えて行った人間も珍しい。維新の政治家では最も惜しまれる人物だが、いかんせん最期があまりに悲劇的過ぎる。筆者がテレビプロデューサーなら、ドラマの主人公として閑叟さんはちょっと地味過ぎだし、江藤なら二の足を踏むという感じかな。う〜ん、困った…。
では「七賢人」の中で誰が良いかと問われれば、筆者が独断と偏見で選ぶなら、ドラマ的に面白そうなのはやはり大隈重信か佐野常民じゃなかろうか。副島種臣は立派な人物だが少し堅い印象だし、大木喬任では影が薄い。島義勇も佐賀と札幌以外では知名度が低そうだ。その点、キャラクター的な面白さといい成し遂げた業績といい、大隈か佐野の二人ならどちらでも、魅力のあるドラマが出来そうな気がするがどうだろうか? NHKさん、ぜひご検討を!
それにしても、この時代の佐賀は光り輝いていた。現在の停滞とはまさに雲泥の差だ。「薩長土」の改革派たちが、頭の固い上層部の説得に苦労しながら、ボトムアップ式に漸進せざるを得なかった時期、ひとり佐賀だけは藩主のトップダウンの元、一丸となってはるか先頭を走っていたのだ。その独走ぶりには佐賀県人として胸がすく思いだが、もっともそれが後に、何ごとも行政に頼る県民性を生んでしまった遠因かも知れないなあ。
ブームに沸いた篤姫の故郷・鹿児島はこの一年で観光客が急増したといい、いまや彼女は西郷・大久保に続く薩摩のニューヒロインらしい。同じ「薩長土肥」に名を連ねる佐賀としては羨ましいが、しかし、考えてみればこちらにだって幕末・明治に活躍した偉人はたくさんいる。佐賀神社には「七賢人」の碑だってある。ここらでそろそろNHKも、こうした佐賀の偉人を主人公にした大河ドラマを、作ってくれても良いんじゃないの──?

そんな思いで最近読んだ本が、毛利敏彦著『幕末維新と佐賀藩(中公新書)』だ。毛利先生の著作は以前にも『江藤新平』や『明治六年政変』などを読んでいたが、この本は今年の夏に出版されたばかりで、新しい研究成果なども多く盛り込まれている。で、一気に読んでしまったが、これが実に面白かった。なによりこの人の書くものには、いつも佐賀への“愛”が感じられて嬉しい(「毛利」なのに…)。
本著には、幕末の佐賀藩主・鍋島閑叟の存在の大きさと、彼の“秘蔵っ子”である江藤新平が新政府で果たした役割が、詳細に描かれている。閑叟さんは写真で見るとヌーボーとした印象だが、実は薩摩の島津斉彬と並ぶ開明的名君だったんだな。幕末佐賀藩を日本随一の科学先進国に改革し、多くの有能な人材を育て上げた指導力は、やはりたいしたもの。その期待を最も大きく集めたのが、江藤という男だったわけだ。

この本はそうした閑叟と江藤の緊密な関係をまさぐりながら、結果としてそれが、明治新政府における江藤の大きな業績に繋がったと述べている。そうなんだよなあ、江藤新平ほど短期間に目覚ましい仕事を成し遂げ、あっという間に消えて行った人間も珍しい。維新の政治家では最も惜しまれる人物だが、いかんせん最期があまりに悲劇的過ぎる。筆者がテレビプロデューサーなら、ドラマの主人公として閑叟さんはちょっと地味過ぎだし、江藤なら二の足を踏むという感じかな。う〜ん、困った…。
では「七賢人」の中で誰が良いかと問われれば、筆者が独断と偏見で選ぶなら、ドラマ的に面白そうなのはやはり大隈重信か佐野常民じゃなかろうか。副島種臣は立派な人物だが少し堅い印象だし、大木喬任では影が薄い。島義勇も佐賀と札幌以外では知名度が低そうだ。その点、キャラクター的な面白さといい成し遂げた業績といい、大隈か佐野の二人ならどちらでも、魅力のあるドラマが出来そうな気がするがどうだろうか? NHKさん、ぜひご検討を!
それにしても、この時代の佐賀は光り輝いていた。現在の停滞とはまさに雲泥の差だ。「薩長土」の改革派たちが、頭の固い上層部の説得に苦労しながら、ボトムアップ式に漸進せざるを得なかった時期、ひとり佐賀だけは藩主のトップダウンの元、一丸となってはるか先頭を走っていたのだ。その独走ぶりには佐賀県人として胸がすく思いだが、もっともそれが後に、何ごとも行政に頼る県民性を生んでしまった遠因かも知れないなあ。
2008年12月03日
トウキョウソナタ

佐賀の街が暗いせいもあるが、このところ夕暮れの訪れが早い。午後6時30分スタートの映画を観るため、その10分前にシアターシエマに駆けつけたとき、もうあたりはすっかり暮れていた。1階の自販機で温かい紅茶のボトルを買い、コートのポケットに入れてエレベーターで3階に上がる。
この日のお目当ては黒沢清監督の「トウキョウソナタ」。タイトルの響きがいいのと、今年のカンヌ映画祭で「ある視点」部門審査員賞を受賞した作品だというので、ちょっとだけ興味があったのだ。ま、ちょっとだけだけど。
ひとことで言えば、これは暗い映画。健康機器メーカーの総務課長を務める主人公・佐々木(香川照之)が、ある日突然、会社をリストラされるところから物語は始まる。だが彼はそのことを妻(小泉今日子)を始め家族の誰にも告げられず、次の日からは会社に行くふりをしてハローワーク通い。しかし、世の中には似たような境遇の男達があふれており、希望するような仕事はなかなか見付からない…。
夫と心の離れはじめた妻、そしてまるで会話のない大学生と小学生の二人の息子。誰もが秘密を抱えながら暮らす佐々木家の家族は、父親のリストラをきっかけにやがて徐々に崩壊し始めて行く──。この辺りまで映画は実にリアルに、どこかにありそうな東京の中流家庭の実態を描いている。他人事ではない思いで、これを見た人も多いはずだ。
だが、途中から映画の方向は急カーブ。小学生の次男がピアノの天才だと分かったり、大学生の長男が唐突に米軍に入隊したり、佐々木家に突然、ハンサムな強盗(役所広司)が押し入り妻を誘拐したり…。まるでスラップスティックの様相を呈し始める。ようやく清掃員の仕事を見つけた主人公・佐々木が、仕事中のトイレで札束を拾うシーンでは、ウソだろうと言いたくもなった。
ウソくさい──。そう、前半リアルで後半ウソくさいこの暗い映画、実は笑えないコメディだとようやく途中で気が付く仕組みなのだ。そんな白けたドタバタ劇の末に、佐々木家はようやく静けさを取り戻し、暖かな曙光が見えたところで映画は終る。ウソくさいけど、終り方の余韻は悪くはない。黒沢監督はこの映画を、そんな奇妙な印象の残るちょっと不思議な作品に仕上げている。
面白いのはこの映画に、全く笑顔のシーンがないこと。誰もが疑心暗鬼で冷淡で、自分を見失い社会に絶望しているように見える。それだけにラストシーンの救いが、よけい明るく感じられるのだろう。
あと、家庭での食事のシーンが多いのも特徴的かな。なんだかそこにはまるで、“一緒に飯さえ食えれば、それで良いじゃないか”とでも、メッセージが込められているようだ。ま、それが家族の基本という奴だろうけど。それにしても、キョンキョンことあの小泉今日子が、こんな演技派女優になるとはね!


